インプラント周囲炎を起こし易いと思われるアバットメントおよびその上部補綴物の形態について

インプラント周囲炎を起こし易いと思われるアバットメントおよびその上部補綴物の形態

  

  歯周炎の治療歴のある患者に植立したインプラントのインプラント周囲炎に対する罹患率は、その治療歴がないものに対して有意に高いことが一般に知られています。自験例においても同様で、広汎型重度歯周炎の治療の一環として、保存が不可能であった複数歯の機能を代償させる目的で植立した複数のインプラントのうち、その一部のものがインプラント周囲炎を発症した症例を経験しています。 ところで、同じ患者に複数のインプラントを植立した場合、すべてのインプラントがインプラント周囲炎を起こすのでなく、その一部のみに認められるのはなぜでしょうか?当院においても、このような重度歯周炎の治療後に、その治療の一環として用いた複数のインプラントの一部にインプラント周囲炎を発症した症例を経験し、セメントの残留や歯周炎の治療歴、喫煙、口腔清掃習慣、等、いくつか知られているインプラント周囲炎の危険因子に加えて、さらに二つの要素が重要ではないかと考えられました。すなわち、一つ目はアバットメントの高さで、生物学的幅径を破壊しない十分な高さを有するアバットメントが望ましいと思います。

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図1説明:マージナルボーンロスと補綴物のアバットメントの高さとの関係を示す図。対合歯と歯槽骨頂までの距離が一定という条件下で、アバットメントの高さおよびクラウンの高さを変化させていることに注目。アバットメントが生物学的幅径(上皮性付着+結合織性付着=約2mm)を十分超える高さを持っている場合のみ、マージナルボーンロスを起こさないことを示す。(図1)Prosthetic Abutment Height is a Key Factor in Peri-implant Marginal Bone Loss.  Galindo-Moreno P, León-Cano A, Ortega-Oller I, Monje A, Suárez F, ÓValle F, Spinato S, Catena A.  J Dent Res. 2014 Jul;93(7 Suppl):80S-85S. より引用  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24621670

 そして二つ目はアバットメントが粘膜を貫通して粘膜面に出てくる際の、アバットメントとその上部に乗せる補綴物辺縁部との移行形態です。余剰セメントの除去を困難にしないようなアンダーカットのないスムーズな移行形態が望ましいと思われます。余剰セメントの残留はインプラント周囲炎の原因となるからです。

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図2説明:セメント固定式のクラウンは、インプラントの上にまずアバットメントと呼ばれる支台をスクリューで固定し(左)、続いてこのアバットメントに対してクラウン(この写真ではセラモメタルクラウン)をセメントで固定する(中)。通常はセメント固定式のクラウンの咬合面にホールは不要だが、本引用論文では、余剰セメントの残留を確認する目的でクラウンをアバットメントと一体として取り出す必要があるため、あえてアバットメントの固定スクリューにアクセス出来るようにクラウンの咬合面にホールを設けている。セメント固定時には、このホールは暫間的に閉鎖される。

 

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図3説明:歯肉縁下にアバットメントとクラウンの辺縁が位置する場合、アンダーカット(直上にセメント除去ツールを引き上げた場合に、セメントを除けない領域)がきついと、近遠心方向の歯肉縁下に余剰セメントが残留してしまう。これがインプラント周囲炎の原因となる。

(図2,3) 2015 Aug;17(4):771-8. doi: 10.1111/cid.12170. Epub 2013 Nov 14.
Clinical Factors Influencing Removal of the Cement Excess in Implant-Supported Restorations.