ワンステップボンドシステムは、シンプルゆえに臨床面で、テクニカルエラーを回避できる可能性が高い。しかし、弱点もある。その弱点は、ツーステップボンドと対比してみることで明確になるだろう。だから、今日のテーマは、エッチングとプライミング、そしてボンディングの役割を知ることだ。エッチングとプライミングの両者が合体しているセルフエッチングプライマーとボンディングを使用するのがツーステップボンドだからだ。
接着の最も基本の部分だが、被着体を天然歯とした場合、接着とはエッチング(脱灰)、プライミング(浸透)、ボンディング(硬化)の3つのステップで出来ている。エッチングとは酸でエナメル質や象牙質を侵食し、歯質表面をリアス式海岸のようにギザギザにすることだ。プライミングとはこのギザギザのザラ面の窪みに流動性の高いレジンモノマーを流し、ギザギザ面に馴染ませることだ。そしてボンディングとは、プライマー(レジンモノマー)で濡れたギザギザの入り江の表面に、さらにプライマーとは別の種類のボンディング(レジンモノマ)ーを流し込んで、光を照射し、プライマー(レジンモノマー)VS.ボンディング(レジンモノマー)を両者とも重合させ、それぞれのポリマー同士を絡みつかせることだ。
プライマー(レジンモノマー)がエナメル質や象牙質の歯面と強力にくっつく原理は、一つには凸凹内にはまり込んで機械的に篏合すること、もう一つはモノマーは歯質のハイドロキシアパタイト表面のCaにも化学的に強固に結合すること、の二つの理由による。
レジンはモノマーとポリマーの両方の状態をとりうる。重合したレジンはポリマーと呼ばれる同じ基本構造がいくつも連なった状態の有機高分子だが、重合する前は低分子のモノマーとして存在する。丁度、たんぱく質がアミノ酸という低分子が多くつながって高分子となっているようなものだ。アミノ酸がモノマーで、たんぱく質がポリマーに相当する。
プライマーもボンディングも、ともにレジンモノマーだが、プライマーは象牙質内のひだひだに深く入り込んで行かなければいけないので親水性(水を好む)である必要がある。なぜなら象牙質は細管構造を有しており、細管の中には液体が満たされているからだ。象牙質に深く入り込むモノマーが親水性でなければいけない理由は、象牙質は水気が多いからだ。そして、プライマーレジンとコンポジットレジンの両方に強固に結合しなければならないボンディングレジンは、疎水性(水を嫌う)である必要がある。レジンVS.レジンのポリマー同士が絡み合って架橋するのに水は邪魔だからだ。
今日では、エッチング、プライミング、ボンディングがそれぞれ別の溶液として販売されている、いわゆる3液性のシステムは少なくなっており、エッチングとプライマーが一つにまとめられているセルフアドヒーシブとボンディングの2液システムが現在では一般的だ。メガボンドはその代表例である。さらに、最近では、コンポジットレジン充填の前処置に必要な3液を一つの溶液に混ぜた形で売り出されており、これがユニバーサルアドヒーシブを用いる1液システムであり、ワンステップボンドシステムと呼ばれるものだ。このタイプの接着システムも、最近、増えてきている。疎水性モノマーと親水性モノマーが同一容器に入ってるわけだから、エアブローがテクニック上のポイントになることが容易に理解できる。モノマーを機能的に働かせるために加えられている水や有機溶媒を飛ばすのはエアブローだからだ。シリンジからのエアブローの加減一つで接着力が変化するということだ。
参考文献:
(1)原嶋郁郎、中林宣男、平澤 忠. レジンとレジンの接着.AD Vol.11 No.3.156-164.1993
(2) 猪越重久.1からわかるコンポジットレジン修復 レジンが簡単に取れないためのテクニック.クインテッセンス出版.東京.2012.
(3)宮崎真至.コンポジットレジン修復のサイエンス&テクニック.クインテッセンス出版.東京.2015.