ここ2,3年前から,学会発表や論文投稿の際,”利益相反(COI)”の申告が義務づけられてきている.”利益相反(Conflict of Interest:COI)”とは,ある行為が,一方には利益になり,同時に他方には不利益になる状態のことである.たとえば,大学に所属している研究者がある試料の科学的な試験結果を社会に報告する際,その研究結果がネガティブなものであれば,それを科学的に,公正な立場で社会に報告することは大学と社会にとって利益である.しかし,その研究に直接かかわった個人としての研究者,および対象となった試料を提供している企業にとっては不利益である.なぜなら,その研究者が研究費なり,寄付金なりをその企業からもらい受けていたり,何らかの契約関係にある場合,企業に対して不利益をもたらすことは自己の利権を損ねるからである.このような場合,研究者は良心と利権との板挟みとなり,結果,データに手加減を加えたりするかもしれない.当然,公表される調査結果は信憑性が低下するだろう.
だから,科学的研究を社会に報告する際は,研究発表者が企業などと”利益相反”状態にあるか,ないかは,その報告の信憑性にかかわる重大事項なのである.大学が公正な立場で科学的事実を社会に発表することは社会貢献であるが,産学連携の必要性が謳われている昨今,現場では,利益相反状態の下で仕事をしていかねばならない研究者は多いだろう.今後,ますます,研究者の良識が問われることになる.