よく咬める咬合面形態について(1)

 よく咬める歯の形、特に咬合面の形態ってどんなのをいうんだ?その前によく咬める状態と、あまり咬めない状態を、どうやって評価するのだ?患者さんからの申告だけでなく、客観的な方法とは?

チェアサイドでの咀嚼効率を測定する方法の一つに、グミゼリーを咀嚼試料として、グミゼリーから溶出するグルコース量を、簡易型血糖測定器で計測する方法が考案され、現在では咀嚼能力測定グルコラム/グルコセンサーGS-Ⅱ(ジーシー社製)として発売されている。咀嚼効率を客観的に評価することで、第一大臼歯咬合面形態を機能的に評価することが可能となる。第一大臼歯の咬合面形態がよく咬める形態になっていると、グルコースがじわーっとよく溶けだすというわけだ。

 こういった方法で客観的に咀嚼効率を評価すると、”咬める歯”の条件を明らかにすることができる。その中の一つに咀嚼運動経路がある。咀嚼運動経路とは、下顎の代表点の3次元的な運動の軌跡を、前頭面(頭蓋骨を正面から見た面)や矢状面(側方から見た面)に投影したものだ。前頭面から見た咀嚼運動経路は、健常者では、一つのパターンとして、たとえば右側で咬む場合、往路と復路は異なっている。つまり、開口路として下顎はやや右側にずれながら下方に下がり、最下方に達したら、閉口路はそこからやや右側に膨らんだ軌跡で中央の開口前のスタート位置にもどる。健常者のもうひとつのパターンとして、開口路として、下顎は正中からいったん、咬む側と反対側の左側の方に振られ、ある程度口があいてきたら、そこから右側に向かい始め、最下方に達したら、さらに右側に膨らんだ軌跡で開口前のスタート位置にもどる。後者は前者よりも、水平のベクトル量が多い。つまり、前者は垂直に近い状態で斜め下方に口を開けているのに対して、後者は水平の遊びの動きを含みながら斜め下方に口を開けている、という違いがある。そして、咀嚼効率は垂直性の運動要素が強い前者の方が高い。

 こういった咀嚼運動経路は何がその決定要素になるかというと、それが大臼歯の咬合面形態だ。機能的な咬合面形態が出来ていると、上下顎の機能咬頭内斜面によって形成される圧縮空間から主機能部位への経路がスムーズになるため閉口路の速度も速くなり、咀嚼力が第一大臼歯に効率よく伝達され、食物の圧搾と粉砕の効率が上がると考えられている(1).

 文章だけで三次元的な運動路の話をするのはわかりにくいかも知れないが、咬む面の形態によって咀嚼効率が変わることをいいたかった。

参考文献(1):なぜ、補綴治療が第一大臼歯の保存に役立つのか?the Quintessence. Vol.35.No.12. 125-135.2016.