重度歯周炎の患者様においては、咬合崩壊(咬み合わせが壊れている状態)が高頻度で認められます。したがって、重度歯周炎の治療においては、咬合再構成(壊れた咬み合わせを再び作り上げること)を伴う全顎的治療を成功させることが重大なテーマです。
右写真は、重度歯周炎の患者様の初診時の状態です。
下顎義歯が咬めない原因として、対合の右上顎臼歯の垂れ下がりをそのままにして義歯を作成したために正常の形態の人工歯をならべるスペースがなくなり、咬合面が真っ平らで高さのない人工歯が使われていたこと、そして咬合平面がゆがんでいるために左右のバランスの取れた安定した咬み力を義歯に伝えられないことが考えられました。
6本の下顎前歯は重度の歯周病になっており、歯根は歯槽骨の支持がほとんどありません。歯周病菌の感染に加えて、不安定で動く義歯による歯の揺さぶりや、咬めない義歯を代償して前歯で咬むことで過剰な負荷が前歯にかかり骨吸収の進行を加速させたと考えられます。ポーセレンメタルボンド冠でスプリント(連結固定)されていたので動揺はあまり目立ちませんでしたが、もしも一本一本を切り離せばぐらぐらになっていたでしょう。
このような状態の歯に,留め金を介して負荷をかける部分義歯の維持を担わせたくなかったので、歯周治療をしっかり行った後、欠損部の補綴治療としてインプラントを選択しました。
治療後の下顎前歯のデンタルX線像ですが、初診時吸収の進行が著しかった歯根周囲の歯槽骨はある程度骨量が増えて回復し、かつ安定しています。歯周ポケットの深さも正常に回復しています。
歯周基本治療後、特別に歯周外科処置は行いませんでしたが、臼歯部にかかる大きな咬合力をインプラントに担わせることで、前歯が義歯の維持から解放され、本来の役割を果たすことだけにその役割が軽減されたことが骨量の回復につながった考えられます。
インプラント周囲炎、並びに咬合を配慮して慎重な管理を行えば、インプラントは重度歯周炎の咬合再構成に有用であると思われます。