歯周病の最新病因論~歯周病は歯周組織と歯周病原菌との共生関係の破たんで発症する~

歯周病のことについて書こう.歯周病の病因論も,21世紀になってかなり変わってきた.どういう風に変わったかというと,以下のようになる.

1) 20世紀の病因論では,歯周病の原因菌は10数種存在していたが,21世紀の病因論では,レッドコンプレックスと呼ばれる,Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス),Tannerella forsythia(タネレラ・フォーサイシア,Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコーラ) の3菌種に限定された.中でも最強に悪い主犯格が,P. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)と考えられるようになった.

2)20世紀の病因論では,歯周病菌の病原性が変化することは知られていなかった.21世紀の病因論では,バイオフィルム内の歯周病原菌の病原性はポケットの環境によって変化することが知られるようになった.つまり,ポケットに出血があるとき,病原性が高まることが明らかとなった.

3)20世紀の病因論では,歯周病の発症や進行に個人差があるのは,免疫力に個人差があるからだと考えられていた.21世紀の病因論では,歯周病の発症や進行に個人差があるように見えるのは,バイオフィルムと歯周組織の間の共生関係のあり方が個人,個人で異なるからだと考えられるようになった.つまり,ある人に歯周病菌が感染してもその人の歯周組織の抵抗性が強ければ発症せず共生関係を築く(つまり,共存共栄関係を築く)のだが,歯周病菌の病原性と歯周組織の抵抗性のバランスが崩れて,歯周病原菌の病原性が歯周組織の抵抗性を上回るようになった時,歯周病が発症すると考えらるようになった.つまり両者の共生関係が破たんした時,歯周病が発生すると考えられるようになった.

という風に,歯周病学が変化している.上記の内容は下記の文献を参考にしているのだが,この本の最後の方で,「歯周病は完治させられない」という身も蓋もないことが書かれている.そんなことを患者さんが聞くとがっかりするだろうから,一言フォローすると,完治させられない理由は,歯周病菌がポケットを構成する粘膜上皮の表面に存在するにとどまらず,粘膜を構成する細胞の中にまで入り込んで免疫システムから逃れようとするものだから歯周病原菌を完全に除菌することが不可能となる,という意味で「完治させられない」と表現されている.しかし,最新の病因論をよく理解すれば,歯周病はコントロール可能な疾患であることがわかる.つまり,歯周病原菌と歯周組織との共生関係を継続させることができれば,歯周病は発症,進行しないということを言っているのと同じことなのだ.そして,歯周病原菌と歯周組織との共生を継続させることは歯周病学的に可能なので,歯周病になっている人や,歯周病になることを恐れている人はどうか安心して欲しい.

参考文献: 天野敦夫.21世紀のペリオドントロジー.東京:クインテッセンス出版,2016.