ジルコニアセラミック・レストレーションの長期予後(1)

 今のところ、ジルコニアは最も硬いセラミックだ。そのモース硬度は8から8.5とサファイヤ、ルビーに次いで硬く、ビッカース硬度は1,300もあり、エナメル質が400程度、保険で主に用いられる金銀パラジウム合金が285、保険外診療で用いられるプレシャスあるいはセミプレシャスメタルが210~300であるから、天然歯表面や歯科用金属よりもはるかに硬い。このように十分硬く、その強度を信頼できるものだから、従来のメタル・レストレーションからオールセラミック・レストレーションへの転換トレンドに乗り、最近では天然歯およびインプラントに用いても破折しないだろうとの考えから、ずいぶんそれらに乗せる修復物として使用されてきている。当院でも、多くの天然歯およびインプラント上部のクラウンやブリッジに使用している。

 ところで、天然歯表面よりはるかに硬いものを天然歯やインプラントの上に乗せて咬ませてもいいのか?という疑問があり、ジルコニアの臨床応用開始当初から議論されている。天然歯よりもはるかに硬いものを天然歯に乗せた場合、対合歯を損傷したり、支台歯そのものが破折したり、支台歯の周囲歯槽骨を破壊したりしないか?という懸念からである。こういう場合は、いくら議論をしても結論は出ないわけで、こういう時こそ疫学調査がものをいう。

 ジルコニアセラミックが臨床の場に登場してそれほど時間がたっていないので、10年の長期予後を報告した文献の入手は難しいが、それでも最近、7年間のジルコニアセラミック冠の臨床統計報告を見つけた(1)。その報告で用いられたジルコニアセラミックレストレーションの詳細は、ジルコニアフレームをべニア用陶材のレイヤリングでカバーしたものであるが、そのようなデザインのジルコニア冠のべニアセラミックの5年間のカプランマイヤー生存率(つまりべニア部分がチッピングしない確率)は、インプラント上で98.3%、天然歯上で97.3%、という優れたものである。そして、7年間の追跡調査の結果、ジルコニアクラウンは良好な結果を約束する修復法であると結論付けている。

 この数値が正しければ、ジルコニアセラミック・レストレーションは信頼できるといえる。ただし、この統計に使用された症例はすべて20年以上の経験を有する一人のベテラン補綴歯科医であり、技工物も一人の経験豊富なエキスパートテクニシャンが手掛けたと書いている。つまり、技工と補綴治療のクオリティーが秀逸であれば、同一の歯科医とテクニシャンが作りだしたものに限定しているだけに、データは平均以上の良い数値が出る可能性があるのかもしれない。

 

参考文献:

(1)Clinical outcomes of zirconia-based implant- and tooth-supported single crowns. Nejatidanesh F, Moradpoor H, Savabi O. Clin Oral Investig. 2016 Jan;20(1):169-78.