接着性レジンが歯と接着する原理

 口腔内は過酷な環境だ。接着には不利な要素が多い。唾液、熱いもの、冷たいもの、酸味の強いものもしょっちゅう、容赦なく入ってくる。さらに、絶え間なく打ち続ける上下の歯同士の強裂な接触。超ハードな環境に置かれているにも関わらず、歯冠補綴物は削られた歯面の上に被せられた後、結構、長期間持つ。これは考えてみれば凄いことだ。なんで、被せた補綴物はそう簡単には取れないのだ?特に最近の接着性レジンセメントの力は目を見張るものがある。そこで、今日のテーマは、接着性レジンセメントが歯と強固に接着する原理についてだ。

 接着性レジンセメントが強力に歯にくっついてしまう秘密は、歯面にセメントを乗せる前に適切な前処置を行うところにある。セメントが乗っていく相手は天然歯支台(組織的にはエナメル質や象牙質)以外にも、金属支台や非金属であるコンポジットレジン支台、セラミックス支台などがある。これらの支台にいきなりレジンセメントを乗せても接着力は出ない。

 天然歯質にはリン酸エッチングと呼ばれる強酸でエナメル質表面を荒らし、凸凹を形成しておけば、その凸凹内にレジンが侵入してタグを形成するので接着力が生まれる。象牙細管と呼ばれる細管構造を基質内に持つ象牙質をエッチングすれば、象牙細管内にレジンタグが形成されるだけでなく、管間象牙質、管周象牙質に対して樹脂含浸層が形成され、強力な食いつきが生じる。

 金属面に対しては金属接着性プライマーをあらかじめ金属面に塗っておく。それから接着性レジンをのせると、金属とレジンの両方にくっつく性質を持つプライマーが金属面と接着性レジンの両者の仲立ちをし、両者を強力に結合させるのだ。この接着機構の詳細は不明だが、プライマーに含まれる硫黄原子(S)がどうやら接着に関与しているらしい。サンドブラスト処理も接着力を高める前処置で、これは50μmアルミナ粒子をサンドブラストで平坦な金属面にぶつけて陥凹をつくり、機械的篏合力を生じさせるわけだ。

 コンポジットレジン支台と接着性レジンとは、同じレジンだから容易に結合するだろうというイメージがある。が、現在のレジンはマトリックスに多感応性メタクリレートを用い、強度を増すために無機質フィラーを多量に混入させているため、たとえレジン同士であっても化学的結合はあまり期待できない。そこで、現在のコンポジットレジンに対する接着は、フィラーに照準を合わせている。そこで、50μmアルミナサンドブラストで表層を一層ざらつかせて機械的篏合力を高めると同時に、内部に埋入される無機質フィラーを表面に露出させて、シランカップリング剤を塗布してから接着性レジンを乗せる。そうすると、フィラーと接着性レジンが強力に接着することで、接着性レジンはコンポジットレジンに強固に接着する。

 セラミック支台の場合も、50μmアルミナサンドブラスト処理後、シランカップリング剤を塗布してから接着性レジンを乗せる。セラミックス冠が接着性レジンと接着する理屈と同様の原理で、接着性レジンはセラミック支台と強力に接着する。

参考文献:安田 登. オールセラミッククラウンの各種支台に対する接着.補綴誌. 43:225~231,1999.