象牙質知覚過敏症(5)~なぜセラミックインレーやクラウンを入れるとしみるのか?~

 セラミックインレーやクラウンを入れた後、なぜかしみる症状が出現した経験は多くの歯科医師が持っているだろう。今日はこの問題についてだ。

 まず、健全象牙質を削ると「しみる」症状が出現する原因についてだが、以前に書いたように、齲蝕や咬耗を伴わない健全象牙質では、その内部の象牙細管は組織液で満たされている。この細管内の液体が、歯の表面に加わる刺激によって移動するので、細管内の知覚神経終末を刺激する結果、痛みが発生する。ちなみに、象牙細管内を液体が流れる速さは、秒速2~4mm程度であり、生活歯髄の歯髄内圧は15~30mmHgと報告されている。そして、歯髄内圧と外圧との差によって、象牙質壁1平方mmあたり5万~7万本存在する象牙細管では、細管圧の変動により、少なくとも一日100回は開口した細管が空になる可能性があるといわれている。

 ところで、齲蝕や咬耗を伴う歯では、リン酸カルシウム系の結晶物が齲蝕の下方に存在しているので(透明層と呼ばれる)、齲蝕を削っても象牙細管は開口しない。つまり、結晶物で細管が封鎖されているのだ。しかし、健全象牙質を削ると、象牙細管はもろに露出する。セラミックインレーやクラウンは必ずしも齲蝕の存在する箇所以外の歯質を必然的に削るのだが、これにより、削られた健全歯質の表面に象牙細管が露出する。したがって、この露出した象牙細管を確実に封鎖できるか、出来ないかで、セラミックインレーやクラウンを装着したあとに不快症状が出現するか、しないかが決定する。セラミックスの修復物の装着は、接着性レジンセメントを使用するので、これと象牙質との界面に「ギャップのない」「密着性」を獲得できるか、否かがポイントとなる。

 接着修復では必ず歯面の酸処理が要求されるため、象牙細管は必ず開口する。しかし、後続のレジン系材料がギャップなく密着適合すれば、刺激の伝達路は遮断され、歯髄刺激は発生しない。ところが、接着不全によりギャップが発生すると、辺縁微小漏えいにより歯髄刺激が惹起されたり、辺縁封鎖が良くても温度変化や咬合圧による歪みがギャップの容積変化を起こし、ポンピング作用による細管内組織液の移動により痛みが発生する。つまり、セラミックインレーやクラウン装着後のしみる症状は、接着不全が原因なのだ。ここに、接着の原理をしっかりと理解し、接着性レジンセメントを正しい術式で使用する必要があることの決定的根拠がある。修復材料がメタルからセラミックスへ移行しつつある現代歯科医学において、接着性レジンセメントの正しい使用法の理解は必須といえる。

参考文献:

冨士谷盛興・千田 彰.象牙質知覚過敏症 第2版.医歯薬出版.2013.