天然歯の歯周炎の管理は容易ではないが、インプラント周囲炎の管理はもっと容易ではない、という実感を持っている。両者とも歯周病菌の感染によって起こるので、歯周病菌の数が臨床症状を引き起こさないレベルにまでその数が減少していれば、歯周炎もインプラント周囲炎も起こらない。つまり、口腔清掃がパーフェクトであれば、歯周炎もインプラント周囲炎も絶対に起こらないのだ。しかし、現実には歯周炎は起こるし、インプラント周囲炎も起こる。それは、口腔清掃をパーフェクトに行うことなど、普通は出来ないからだ。いくら清掃しても、少々プラークは残るものだ。それでも臨床的に歯周炎にならないのは、少々の歯周病菌が歯周ポケットに残っていても、生体には歯周病菌に対する免疫力があるからなのだ。ところが、現実には、特に全身状態が低下していなくても歯周炎やインプラント周囲炎が発症する。同じ口腔でも、同様に清掃していたとしても、特定の歯やインプラントのみに歯周炎やインプラント周囲炎が発症する。これは、局所の問題なのだ。
もしも、特定の歯周ポケットやインプラント周囲ポケットのみにプラークが多量に付着していればその部位が歯周炎やインプラント周囲炎になる。しかし、プラークの残存がどの部位も一定レベルであれば、歯周炎やインプラント周囲炎になる部位には、局所の要因が存在する。
ところで、周囲の歯周病細菌数や免疫力が一定と仮定した場合、天然歯とインプラントでは、どちらが周囲に炎症を起こしやすいのだろうか?この問題を考えるには、天然歯の歯周組織とインプラント周囲組織との違いを理解するところから始めなければならない。
「歯周組織とインプラント周囲組織とはどこが違うのか?」を考えるとき、最も大きな違いはインプラントには「歯根膜がない」ことだ。歯根膜が存在しないということは、天然歯でみられる「セメント質ー歯根膜ー歯槽骨」という歯の結合様式がインプラントでは存在しないということだ。さらに、歯根膜に存在する神経や血管も存在しない。結局、インプラント体が生体内で接触している組織は、1 上皮組織 2 上皮下結合織 3 骨組織 ということになる。この歯周組織とインプラント周囲組織との構造の違いが、両者の細菌に対するバリアーとしての機能的な差を生み出している。
参考文献:三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016