医原性プラーク停滞ファクター

 歯周病成り立ちの第一ステップであるポケット内へのプラーク停滞の原因は、ブラッシングの不良だけではない。本人の努力の及ばないところに原因があったりする。

 たとえば不適合補綴物。補綴物のマージンが支台歯の本来の位置より外側にあるタイプの不適合を「オーバーハング」という。冠表面の”盛り上げすぎ”のことで、下から上へスケーラーを引き上げても、この外側に飛びだしたオーバーハング部分がステップを作り、スケーラーのストロークを邪魔してプラークを除去できない。

 また、補綴物マージンが歯肉縁下(しにくえんか)深くに設定されてもプラーク停滞の原因になる。マージンが歯肉縁下に設定されるとは、かぶせ物の辺縁が歯茎のトップより根尖側に入っている状態のことだ。被せものと歯面、あるいはインプラントのアバットメントとの境界部は不潔域であり、歯周病学的には、この部は歯肉縁より上のレベルに位置することが望ましい。なぜ、歯肉縁下ではプラークがたまるのか?それ境界部が歯肉に隠れて見えないから、プラークが残っていても気づかず、したがって磨き残すからだ。また、境界部は完全なフラットなサーフェイスになりようがなく、どうしても微小な隙間が空く。通常この隙間は補綴物装着用セメントで充填されるが、このセメントがまたザラザラしているゆえに格好のプラークの付着部位となる。よって、補綴物マージンを歯肉縁下に設定した場合は、どうしてもマージン部がプラ―ク停滞を招く。Schätzle らの報告によると、スカンジナビア男性の26年間のコホート研究では、歯肉縁下に補綴マージンを設定したグループでは、10年後に0.5mmのアタッチメントロスを起こしていたという(1)。ペリオの管理面から言うと、補綴物マージンを歯肉縁上に設定した方が、圧倒的に、歯周病の予防をしやすいのだ。

 だから、あまり歯肉縁下深い補綴マージン設定は、医原性プラーク停滞ファクターと言っていいかも知れない。

参考文献

(1)Schätzle M1, Land NP, Anerud A, Boysen H, Bürgin W, Löe H. The influence of margins of restorations of the periodontal tissues over 26 years. J Clin Periodontol. 2001 Jan;28(1):57-64.