別にマッチョになろうとは思っていないが、トレーニングして筋肉を一定量、維持することは重要だと認識している。筋肉の量が次第に減ることは、老化していることに他ならないからだ。老化は衰弱だ。エネルギーの低下だ。活動性の減弱だ。まだまだ、私はやり残していることが多くあるので、体力と気力が必要だ。衰弱などしておれないのだ。よって老化を忌み嫌う。
で、なぜ筋肉の量が減ることは、全身の衰弱と結びつくのだろうか?今日のテーマはそこのところだ。
その鍵はミトコンドリアにある。ミトコンドリアは全身の細胞内に存在する小器官だが、実は骨格筋の中にはミトコンドリアが豊富に存在する。このミトコンドリアは、実に多くのうれしい機能を担っているのをご存じだろうか。その一つは、ミトコンドリアは脂肪酸β酸化によりエネルギーを産生している。エネルギーとはATPだ。ミトコンドリアがATPを作り出すのだ。そして筋肉にはミトコンドリアが豊富に存在する。だから、筋肉量が多ければ、生み出せるATPの量も多い=活動量が高い=若々しく生きる、という図式が成立する。したがって、一定の活動量を維持するには、骨格筋の量も一定量維持される必要があるわけだ。基礎代謝における骨格筋の熱消費量は全身の30%と言われており、人体のエネルギー消費のもっとも盛んな器官である。と、同時に、最大のエネルギー産生器官でもある。
また、骨格筋は、当然のことだが、運動するのに必要なものだ。ところで、運動は健康に良いと一般的にいわれているが、具体的な運動の健康面に及ぼすプラスの効果の一つは、抗糖尿病作用だ。運動は糖尿病を改善し、予防するのだ。糖尿病になるとインスリンの糖取り込み作用が低下する。この糖取り込み低下は、骨格筋に起因することが明らかになっている。運動はこの骨格筋の糖取り込みを増加させ、インスリン抵抗性を改善する。このメカニズムとして、骨格筋内のエネルギ―状態を感知するAMPキナーゼの活性化が想定されている。この刺激により、GLUT4(グルコーストランスポーター4)が細胞内の貯蔵場所から細胞膜に移動し、グルコースの運搬を始める、と考えられている。つまり、生体内の唯一の血糖降下ホルモンであるインスリンとは異なる情報伝達経路により、血糖値を低下させうるのだ。やはりそうか。血糖値を上げるホルモンは多く存在するのに下げるホルモンはインスリンしかない、というのはどう考えても理不尽だと、以前から思っていた。
糖尿病は骨格筋のインスリン情報伝達の不全により、糖取り込みが阻害されて起こる。その一方で、インスリンに頼らず血糖値を下げるもう一つのメカニズムが存在している。それが運動だ。筋トレだ。筋肉を鍛錬することで、糖尿病は改善する。だから、一定量の筋肉は必要なのだ。
参考文献:亀井康富、小川佳宏.骨格筋からみた糖尿病の病態と治療.月刊糖尿病 2015/1 Vol.7 No.1