認知症に歯科が貢献できる理由

  昨日、認知症患者さんの歯科治療は容易ではない、と書いた。もちろん、歯科治療の介入は認知症患者さんの生活の質を高めることに貢献できると思う。しかし、認知症のステージと歯科の貢献能力の関係を考えてみると、進んでしまった認知症患者さんの口腔機能の回復という貢献に比較して、認知症の進行を抑制したり、認知症を予防したりする貢献の方が、はるかにその度合いが高いと思う。つまり、歯科治療は、認知症を予防できるのだ。

 よく咬める状態を保つことで、認知症の発症頻度を下げることができるエビデンスはある。2つのコホート研究を参照してほしい。たとえ、歯周病で歯を失ったとしても、きちんと適合した義歯を作製して、それを使用していれば、使用しない場合に比べて、はるかに認知症になりにくいのだ。

 この点は重要だ。超高齢社会を迎えて、われわれ歯科医師は国民の認知症予防に貢献できるということは、素晴らしい。歯科医療に大きなやりがいを感じずにはいられない。

 われわれ歯科医師が国民の認知症予防に貢献できるためには、ポイントは二つあると思う。その一つは、よい口腔機能を保つことの重要性、わかりやすく言えば、歯科治療でよく咬めるようにすることで認知症の発症率を下げることができる事実を、国民にあまねく知らせることだろう。国民に知ってもらわなければ、われわれは力を発揮できない。

 二つ目のポイントは、歯を失ってから義歯で機能回復を図るのでなく、やはり歯を失わないように予防に力点を置くことだ。これは政策レベルでも、歯科医院レベルでもそうだ。歯科衛生士の能力を最大限に発揮してもらい、国民の認知症発症をストップさせること。これは重要だ。

 僕は、当面、こういったスタンスで、治療だけでなく、齲蝕や歯周病の予防を重視した臨床を展開したい、と思っている。