歯周治療におけるメインテナンスの位置づけ

 今日は県の歯科医師会主催の香川県歯科医学大会に参加し、歯科衛生士対象セミナー「歯周治療におけるメインテナンス~プロフェッショナルな歯科衛生士をめざして~」を聴講した。自分は衛生士教育に関心が高まっているタイミングなので、歯科衛生士対象ではあったが勉強になった。

 どういった点が勉強になったかというと、原点だが、歯科衛生士の職域についての正確な理解ができた。いままで、歯科衛生士法を詳しく読んだことはなかったが、著名な講師の先生(日本歯科衛生士会の専務理事をしておられる現役歯科衛生士の方)のお話は地味な導入ではあったが、これが為になった。まず、歯科衛生士の業務内容について教えて頂いた。

 歯科衛生士が関与する業務は、1.歯科予防処置 2.歯科診療の補助 3. 歯科保健指導の3つの領域があり、また、これらの仕事は別の観点から絶対的医行為と相対的医行為に分かれるのだという。前者は歯科医師のみが行えるもので、後者は歯科医師が歯科衛生士の能力を適正と評価した場合に限り歯科衛生士に指示してやらせることが可能な業務である。絶対的医行為における歯科衛生士の仕事は歯科医師の診療介助であり、相対的医行為におけるそれは、スケーリングやルートプレーニングなどが該当するという。

 この点は意外だった。予防が歯科衛生士の本業であるからブラッシング指導などは歯科保健指導にあたり問題ないと思っていたが、スケーリングやルートプレーニングも同様に衛生士独自の判断で自由にできる医療行為と思っていた。しかし、これは認識が誤っており、スケーリングやルートプレーニングは歯科医師の指示の下で、歯科医師が依頼者をその実施が適正と判断することが前提で、歯科医師に代わって行うことが出来る医行為なのである。

 本来、歯科医師がリードするべき仕事だったとは!これまで、スケーリングやルートプレーニングは歯科衛生士さんの聖域で、歯科医師がそのやり方にとやかく注文を付けてはいかんものと誤解していた。これまで、スケーリング・ルートプレーニングを歯科衛生士に丸投げしていたことを反省し、歯科医師の指導が必要な重要な医療行為である、と再認識した次第。

 もう一つの収穫は、メインテナンス≠PMTCということ。メインテナンスも歯科医師が近寄ってはならぬ歯科衛生士の聖域と誤解していたが、メインテナンスは治療後の歯周病や齲蝕が悪くなっていないかチェックする機会であって、けっして清掃するだけではない。正確にいえば、メインテナンスの内容は、1.悪くなっていないか、悪くなるようなことが起っていないかの確認 2.悪くならないための対応 の2つに分けられる。1.における具体的チェック項目としては、全身状態の把握(生活習慣、あらたな疾患、服用薬の変更や追加、喫煙状況、加齢、ライフスタイル)、歯周組織の評価(プラークの付着や付着部位、歯肉の発赤、腫脹、退縮、プロービング値、BOP、歯の動揺度、エックス線写真による骨吸収の判読)、歯の観察(根面カリエス、トゥースウエア、歯の破折、歯の変色、エックス線写真(隣接面カリエス)、補綴物の状態、フィステルの有無、補綴物対合歯の摩耗)、義歯(適合性、粘膜のチェック、プラークの付着)、インプラント(インプラント周囲炎の有無、アバットメントスクリューのゆるみ、プラークの付着、知覚過敏、力、といった多くの項目があげられるのだ。2.の悪くならないための対応が、プロフェッショナルケアであり、セルフケアの支援強化である。決してメインテナンスって、患者さんを気持ちよくうたたねさせるような口腔清掃をすることではないということだ。

 これって、重大な発見だ。文字にして列記すると、悪くなっていないかのチェック項目が、口腔ケアに比べて圧倒的に多いではないか!これって、頭をぐるぐる回してないと仕事が務まらんぞ。メンテナンスはまさに歯科医の領域だ、それを歯科医の指示をうけて信頼できる歯科衛生士が担当するだけのことだ。と、いうことで、メインテナンスはとても重要で、プロフェッショナルな知識と技量が必要な仕事であることが理解できた。

 こういった項目をリストに加えたメインテナンスマニュアルを歯科医師監修で作製したいものだ。