アルツハイマー病と歯周病

 歯周病がアルツハイマー病の発症と関係する可能性があることに言及しよう。昨日、書いたように、アルツハイマー病患者の中枢神経では炎症反応が亢進していて、それがアルツハイマー病の病態形成に重要に関与していると考えられている。

 ところで、歯周病患者の歯周組織では炎症性サイトカインの産生亢進が認められるとともに、血中のCRP、TNF-α、IL-6等の炎症性サイトカインのレベルが上昇している。これら歯周組織由来の炎症性サイトカインは血行性に全身に波及する可能性がある。よって、歯周組織の炎症が、たとえ血液脳関門というバリアーがあっても、直接的に脳内に波及し、アルツハイマー病の病態を増悪させる可能性はあるのだ。なぜなら、炎症性サイトカインは血液脳関門ンシステムを破たんさせることが出来るからである。

 また、種々の細菌がアルツハイマー病の脳から検出されることが報告されている。口腔内スピロヘータであるoral treponeme speciesがアルツハイマー病患者の脳で発見されている。また、Aggregatibacter actinomycetemcomitans が脳の膿瘍形成にかかわることが報告されている。さらに、Fusobacterium nucleatumや Prevotella intermediaの抗体価がアルツハイマー病患者の血清で上昇している。そのうえ、驚いたことに、アルツハイマー病で死亡した患者の剖検脳組織において、Porphyromonas gingivalisが高頻度に検出されている。このことは、歯周病菌のうち、Porphyromonas gingivalisが選択的に脳実質に潜入できることを示している。

 こうした、歯周炎由来の炎症性サイトカイン、および歯周病細菌あるいはその毒素が、脳まで到達可能である事実が知られているが、それらがアルツハイマー病につながるセオリーとして、以下のようなストーリーが考えられている。

 「口腔内の歯周病原細菌や毒素が血行性に脳に移行する。血液中の炎症性メディエーターの上昇や脳血管の老化、あるいは細菌毒素の直接的作用によって血管炎症が生じ、血液脳関門の透過性が更新する。その結果、脳実質へ移行した細菌や毒素はアミロイドβやタウと協働してしてミクログリアを活性化し、脳に自然免疫応答を惹起するとともに、神経細胞を障害する。このような神経炎症や神経細胞・組織変性の慢性化が、アルツハイマー病の病態を増悪している可能性がある。(1)」

 というわけで、アルツハイマー病の発症原因に関して、炎症性サイトカインを巻き込んだ分子レベルの解明が完全に行われていない現在にあって、この程度のメカニズムが推測されている状況にある。

参考文献:(1)日本歯周病学会編. 歯周病と全身の健康. 医歯薬出版. 2015