アルツハイマー病と神経炎症仮説

 アルツハイマー病の病理学的特徴はアミロイドβの沈着と過剰にリン酸化されたタウタンパク質の沈着による神経変性だ。そして、正常細胞が産生するアミロイドβとアルツハイマー病で見られるそれはアミノ酸の数が変異しており、アミロイドβの前駆タンパクAPPを切り出すγセクレターゼと呼ばれる酵素の遺伝子レベルの変異がこの現象をもたらしている。家族性にみられる家族性アルツハイマー病が存在するように、疾患の原因の一部は遺伝子であることに間違いないが、それ以外に環境や生活習慣も原因になりえる多因子疾患と考えられている。

 ところで、アルツハイマー病の病態に関与する因子の別の切り口からの研究により、神経炎症がアルツハイマー病の成因に関与している可能性があることが報告されており、注目されている。アルツハイマー病やパーキンソン病の様な神経変性疾患では、神経免疫システムの異常による慢性炎症状態のために、脳内のマクロファージであるミクログリアからの炎症性サイトカインやフリーラジカルの産生が更新している。IFRγやTNFαなどの炎症性サイトカインやフリーラジカルはそれ自体が神経細胞への組織障害性を有していて、気分脳障害に認められるシナプス病変、神経新生抑制、白質病変などの組織学的変化をもたらす可能性がある。また、炎症性サイトカインはセロトニンの合成系に影響を与え、セロトニン産生の減少を起こすことも知られている。これは、アルツハイマー病の初期にうつ状態を合併することが多いという事実と一致する。

参考文献:門司 晃. 精神疾患の神経炎症仮説. 精神経誌.Vol.114. No.2  2012.