訪問診療という医療

 今夜、テレビで、在宅の認知症患者の訪問診療をしている内科ドクターが紹介されていた。なんらかのわだかまりがあって、おそらくは認知力の低下を認めたくなくて病院には行かない患者を、逆に医師が出向いていって、定期的に様子をうかがうことで症状の進行を抑えることが出来る、医師にとってはやりがいのある医療である、という趣旨で放送されていたように思う。そこで今日のテーマは「訪問診療」だ。

 超高齢社会の医療のキーワードである「地域包括ケアシステム」という行政主導的な趣のある新医療システムにおいて、訪問診療は重視されている。しかし、今日はそういった政策的な面からの評価ではなく、個人的な立場から訪問診療に対する考えを書きたい。

 どんなことにもプラスとマイナスの面があると思うが、訪問診療もそうだろう。しかし、近い将来は訪問診療が開業歯科医院の仕事の一つのカテゴリーとして一般化することが明らかである以上、物事はポジティブにとらえたい。そこで訪問診療のプラスの面につき、考えてみたい。

 訪問診療の良い面のその一。白衣を着なくてもよいこと。これは素敵なことだ。人間対人間の対等のお付き合いができそうだ。白衣を着ることで、われわれは専門職としての歯科医師を演じている。病院においてはこれは当然の態度だが、一種の堅苦しさを創り出している。患者の自宅を訪問する際は私服で仕事をしてよいのではないかと思う。そうすることで、われわれは気さくにふるまえるし、患者さんも安心できるだろう。素顔で仕事ができることはよいことだ。

  訪問診療の良い面その二。診療に専念できること。訪問診療の時間は診療だけしていればよい、ということは実は精神面ですごくよい効果をもたらすのではないかと思う。というのは、医院で患者を待ち受けるにはそれなりの準備がいるのだ。消耗品程度の機材の準備だけならまだしも、医院の設備の整備や清潔に保つための清掃、医院を開けておくための水道光熱費、人を雇用するための労務管理、診療後の経理、あるいは、一般企業ほどではないにしても宣伝広告、マーケティングやプロモ―ション、患者さんを回すための時間管理、etc.医療活動を円滑に行うためには、結構準備が大変なのだ。その点、訪問診療って診療して、報酬は行政に請求すればよいだけ。マーケットを開拓する労苦や、その時間のため特別の人材を確保する必要はない。で、あれば、医療とは本来楽しいものなので、自院で待ち受けるよりも、出向いていく方が、仕事の内容がシンプルで研ぎ澄まされ、意外とストレスが少なく楽しく仕事できるかも、と期待するわけだ。

 訪問診療の良い面その三。採算を考えなくてもよいこと。赤ひげ的世界だ。正確にいえば報酬は所定の手続きを踏めば得られるので、無報酬ではないから赤ひげではない。なんといっても、仕事のやりがい、喜びを直接感じ取れるのが赤ひげの世界だが、採算度外視の医療など自院の待ち受け型ではさすがにちょっとできない。だから患家に出向いていくことで医療の原点を感じ取ることができそうだ。ボランティアではないが、意識の上ではそれに近い。儲けは考えなくてよい。

 以上、訪問診療についての現時点での感想を述べたが、実はまだ当院は訪問診療をやっていない。そろそろアクションを起こそうと思うので、お呼びがあれば、歯科衛生士を伴って口腔ケアあたりから始めればよいかと考えている。