長寿遺伝子Sirt1~Part 1~

 願望を成就させるのに必要なものは、カミソリのように切れる頭脳ではなく、なにかを愚直にこつこつ毎日継続する根気と、どんな環境の変化にも心を折らないナタのような鈍なマインドである、という意見を聞いたことがあり、自分はこれを金言として採用している。そして、この金言を必要とするということは、まだ自分の本願を成就させていないことに他ならないのだが、それには時間が必要となる。あれもこれも出来ていないけど全部やりたい、というときに必要なのは時間だ。そのためには健康長寿だ。というわけで、今日のテーマは長寿遺伝子Sirt1でいこう。

 カロリー制限をすると、酵母や線虫、ショウジョウバエのような下等生物から哺乳類のような高等生物まで、普遍的に寿命がいちじるしく伸びることが確認されている。この現象に関与する分子は酵母や線虫など下等生物を使った実験系により同定されており、その中の一つにSir2がある。Sir2を欠損させると寿命が短縮し、過剰発現させると延長する。Sir2は下等生物から哺乳類に至るまで高度に保存されており、ヒストン脱アセチル酵素として機能する。このヒストンの脱アセチルというのは遺伝子の転写を調節するのに必要な機能だ。哺乳類では、7種類のsir2のホモログが存在し、Sirtuinファミリーとして知られ、Sirt1からSirt7まで7種類が同定されている。その中でもSirt1が酵母Sir2と最も類似しているものとして注目されている。

 Sirt1はNAD+依存性タンパク脱アセチル化酵素としての機能を持ち、生体内の様々なタンパク質と相互作用することにより、広汎な生理機能を制御しているものと考えられている。そして、その広汎な生理機能は老化というイベントと密接に関連している。具体的には、Sirt1のターゲットは核内転写因子としてのp53,Foxos(forkhead box o), NF-κβ(nuclear factor -kappa β)、PGC-1α(peroxisome proliferator – activated receptor gamma coactivator -1α)等の分子で、これらと相互作用し、細胞周期・細胞老化・アポトーシス・インスリン/IGF-1経路などを調節し、ストレス抵抗性や代謝に関与している。

参考文献:大田秀隆.長寿遺伝子Sirt1について.日本老年医学会雑誌.vol.47.No.1. 11-16.2010.