Sirt1のターゲットが、どの臓器のどの分子に作用しているかは興味深いが、それは現在も盛んに研究が行われているので、別の機会にまとめよう。もう一つの興味深いポイントは、どういう環境下でSirt1が活性化されるのか、という点だ。
カロリー制限に加えて、それに類似した各種ストレスとSirt1との関係もわかってきている(1)。
まず、低酸素状態になるとSirt1は活躍する。低酸素状態になると,HIFs(hypoxia-inducible factors)という分子がSirt1により脱アセチル化され、その活性をいちじるしく上昇させる。このHIFsはSod2(Superoxide dismutase2)、VegfA(Vascular endothelial growth factor)、Epo(erythropoietin)の発現を上げ、ストレスに対する抵抗性を細胞に与える。
次に、運動刺激により、細胞内のAMP/ATP比が上昇し、AMPKが活性化され、それに伴ってSirt1も活性化される。Sirt1はリン酸化PGC-1αを直接脱アセチル化することでその活性を更に上昇させる。
さらに、温熱刺激によっても、Sirt1は活躍する。温熱刺激により、Sirt1はHSF-1(Heat shock factor 1)という分子に直接結合し、脱アセチル化を行い、HSF-1の転写活性を上昇させる。結果として、Hsp(Heat shock protein)と呼ばれる痛んだ細胞を修復する蛋白の産生を上昇させる。
ここで、体を低酸素状態にする方法はわからないが、残りの二つの条件は自分で管理できる。つまり、しっかり運動したり、熱めのお湯に入浴したりすれば、Sirt1が活躍し始め、結果として老化が防げるのではないか、と考えるのだが。
参考文献:(1)大田秀隆.長寿遺伝子Sirt1について.日本老年医学会雑誌.vol.47.No.1. 11-16.2010.