覚醒時ブラキシズムとTCH~1~

 歯科臨床においてブラキシズムは厄介な問題なので、今日のテーマはブラキシズムだ。

 どういうふうに厄介かというと、ブラキシズムは補綴物の破折や脱落、歯冠破折や楔状欠損(WSD)、知覚過敏、歯周病の悪化、顎関節症、非感染性の歯痛、舌痛など、顎口腔系にさまざまな害をもたらすのだ。

 「ブラキシズム」は、「反復性に上下の歯を当てておこなう歯ぎしりやくいしばりといった咀嚼筋活動を主体とした非機能的運動の総称」と定義され、睡眠中に行われる睡眠時ブラキシズムと昼間の起きている間に行われる覚醒時ブラキシズムに区別される」と定義される(1)。とまあ、難しそうないいまわしだが、ひらたくいえばブラキシズムとは歯ぎしりや食いしばりのことだ。歯ぎしりや食いしばりは夜中に行われると思われがちだが、昼間にも行われる。それが覚醒時ブラキシズムだ。

 ところで、「食いしばり」という行為は相当強い力で行われるイメージがあるが、患者の意識調査では、患者が「くいしばり」という言葉からイメージする力は最大咬合力の70~80%であることがわかっている。けっこう強い力で歯をあてるイメージだ。しかし、実際にはこれよりもはるかに弱い力であっても長時間歯を接触させると顎口腔領域に悪い影響が出ることがわかっている。この弱い力で歯を接触させる行為が「TCH:Tooth Contacting Habit」だ(2)。

 実は、機能的な歯の接触(咀嚼や発音)の一日の総時間は平均17.5分といわれている。けっこう短時間だ。食いしばりなどの非機能的な歯の接触もこれと同様に強い力で当て続けることは難しいと考えられるが、弱い力でならそれが可能だ。それがTCHなのだ。だからTCHとは、「歯の接触の持続を繰り返す習慣的行為」のことだ。このTCHは、顎口腔領域に害をもたらす原因として、最近、注目されてきている。

 

参考文献

(1)Lobbezoo F, Ahlberg J, Glaros AG, Kato T, Koyano K, Lavigne GJ, de Leeuw R, Manfredini D, Svensson P, Winocur E. Bruxism defined and graded: an international consensus.J Oral Rehabil. 2013 Jan;40(1):2-4. 

(2)西山 曉. 覚醒時ブラキシズムとTCH.The Quintessence.Vol.35 No.7. 42-55.2016