光殺菌歯周治療 1 ~古くて新しい治療~

今日の話題は、最近、当院で力をいれている“光殺菌”歯周治療です。これは“光殺菌”と呼ばれる療法を歯周治療に応用したもので、歯周病菌に感染した歯周組織に光を照射して、歯周病菌をやっつける治療法です。

この“光殺菌”の部分は、一般的には「光線力学療法」(フォトダイナミックセラピーPDT:Photodynamic Therapy)と呼ばれている治療法を用いることを意味します。以下、光線力学療法について概説します。

「光線力学療法」(PDT)とは、光に反応する特定の物質に光を照射し、引き起される光化学反応によって産生される活性酸素により、標的とする細胞を殺滅する治療法です。そして、標的細胞が細菌であれば感染症の治療に、標的細胞が腫瘍であれば癌の治療に用いられます。

「光線力学療法」(PDT)の歴史は古く、1900年にRaabという学生が水槽の中で飼っていたゾウリムシを無害とみなされていたアクリンオレンジという色素で染色したところ、致死的効果を認めたことに端を発するとされています。彼はこの現象が太陽光線が窓から差し込まれていた時に起こることに気づきました。そして、この現象は染色色素、光、酸素が関与していると洞察した指導教官Tappeinerが、この現象を“Photodynamic action”と命名しました。これが光線力学療法(PDT;PhotodynamicTherapy)(以下PDTと称す)の最初の発見です。

PDTは当初、光が細菌を殺すことに着目して感染症治療への応用が研究されていました。1901年にNiels Finsenは天然痘や皮膚結核の治療に光を用い、1903年には光線療法に関する業績でノーベル賞を受賞しました。しかしながら、1910年にペニシリンが発見されて以来、感染症治療においては抗生物質が主役となり、細菌に対する光線力学療法は忘れられていきました。

一方、1924年にPolicardらによってポルフィリンという光感受性物質が腫瘍に特異的に取り込まれ蛍光を発することが報告されて以来、PDTは主に医科領域で、癌治療の分野で発展してきました。

そして、わが国の医科におけるPDTの臨床応用は、1994年の厚生省の認可、1996年の保険収載を経て、現在では、呼吸器科では肺癌、軌道狭窄を伴う進行性癌、消化器科においては早期食道癌、早期胃癌、婦人科においては子宮頸部初期病変、脳神経外科においては脳腫瘍、眼科においては加齢黄斑変性症、皮膚科においては皮膚癌、血液内科においては白血病、悪性リンパ腫に対して行われており、医科においてPDTは一般化しています。

しかしながら、近年、抗生物質耐性株(MRSAなど)の出現により、感染症に対する
抗生物質以外の治療法が模索されるなかで、古くて新しいPDTに対する関心が感染症治療の分野で再び脚光を浴びて来ました。そして、癌に対するPDTと区別するため、細菌などの殺菌を目指して使用するPDTを、Antimicrobial-PDT(a-PDT;抗菌光線力学療法) という名称が用いられるようになりました。
 (次回へ続く)