ジルコニアセラミックの進化 ~2~

これはどういうことかというと、ジルコニアは強度があるけれどもあまり審美的な材料でないので、前歯部に使用する際には前装陶材を接着していたことに起因します。つまり、ジルコニアが前歯部に使用される場合には、ポーセレンメタルボンド(PFM)と同様に強度はジルコニアにゆだね、審美性は前装陶材にゆだねる、といったような二層構造を持っていたからです。いわゆる“(ポーセレン)ジルコニアボンド”と呼ばれるものです。

このような性質の違う二種類のセラミックスが一体化したような構造物の欠点として、両者の界面から前装陶材が剥離したり、前装陶材がチップしたりすることは起こり得ます。それが生存率85%の主な理由でしょう。この現象は、前装陶材自体の強度不足、前装陶材とジルコニアの接着力不足、弾性率や熱膨張係数の違い、ジルコニアフレームの形態が前装陶剤を保持できる形態になっていない、等などの要因が存在するからです。

この欠点を補うために、最近になって登場したのが単層構造ジルコニア修復物(モノリシックジルコニア)です。モノリシック(Monolithic)とは「一体となっている」、あるいは「一枚岩」という意味の英語です。このモノリシックという用語は、ジルコニアの組織的な性状ではなく、ジルコニアを使った修復物の状態をいいます。ジルコニアだけで作られた状態の修復物が“モノリシックジルコニア”で、“フルジルコニア冠”ともいいます。

(次回に続く)

ジルコニアセラミックの進化 ~1~

ジルコニアは、現在、セラミック修復において最も多く使用されている材料です。その隆盛の原動力の一つに、ジルコニアの持つ丈夫さがあげられます。破折強度900~1300MPaというのは、歯科材料の中では最強に位置します。他のセラミックや金属以上の強度を持っているのです(とはいえ絶対に割れないわけではありません。ジルコニアは高い曲げ強度を持っていますが、それでも金属ほどたわまないので、曲げ力を加えると金属が耐える限界点の前で“パリン”と割れます)。

それほど上部なジルコニアの長期予後はどうなんだろう?と気になるところです。それに関して、ジルコニアの10年後の生存率が85%という数字が、最近になって報告されました。その内容を見ると、ジルコニアフレームそのものの破折はなく、前装陶材のチップ(かけること)が28%であったとのことです。

ジルコニアの10年生存率が85%という数字はまずまずの数値です。きわめて優れているわけでもなく、また劣っている数字でもありません。1985年から2006年までに海外から報告された補綴物の生存率に関する16論文のレビューでは、クラウンブリッジは、装着後10年以上経過すると非生存率が1割を超え始め、15年で約1/3、20年で約1/2まで生存率が落ちる、つまり存在しなくなる、と報告されています。それを考えれば、10年たって残っているジルコニア冠が85%という数字は、ほぼ従来の補綴物と変わらないといえます。優れた強靭性を備えて鳴り物入りで登場したジルコニアがなぜ凡庸な成績なのか?という疑問がわきますね。

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新年明けましておめでとうございます🐭♥

 

明けましておめでとうございます🎵🎵

本年も中山歯科クリニックを宜しくお願い致します😆🌟

 

年明けから歯茎の痛みや、かぶせがかけた、取れたと来院する患者様が多くいらっしゃいます💦

痛みや違和感を感じたら放っておかずに歯科を受診しましょう‼‼

とれたかぶせは捨てずにお持ちください🌸

 

トリートメントコーディネーター 溝渕

破折強度について

以前、歯科用セラミックの強度を比較する数値を紹介しましたが、その際に何も言及しなかった「破折強度」の捉え方を今日は紹介します。破折強度とは、ある材料に力を加えたとき、例えば「加圧する」、あるいは「引っ張る」といった力をゼロから徐々に加えていった場合にどこかでその材料は破断します。今ある状態を保てる限界を超えてその材料が破断を起こすその瞬間に加わった力をもって「破折強度」とします。

その検査の方法とは、例えば板状の材料を、両端を支点で支えられた状態で台の上に起き、中央部に力を加える金属製の棒のようなものを押し当て徐々に力を加えるのです。ちょうど、空手家が両端をブロックで支えられた瓦の中央を手刀で割るような案配です。それを一気に力を加えるのではなく、のせる台がブロックでもなく、棒にコントロールされた力を徐々に加えられるように作られた精密測定器の台の上で試験するのです。資料の形は板状のこともあれば、調べたい歯冠修復物の形状に作ることもあります。

加える力は圧力で表現され、その単位はMPa(メガパスカル)という国際単位が用いられます。1Paとは1平方面積(m2)あたり1ニュートン(N)の力が作用した状態の圧力となります。

すなわち、1Pa=1N/m2 となります。ちょっとイメージしにくいですが、1Paは1 m2の板の上に「リンゴ(約100g)」が1個置かれているくらいのときの板に加わる圧を示しています。またM(メガ)は「10の6乗」を示すもので、1MPaは1Paの100万倍の圧力です。

 ジルコニアの破折強度が900~1300MPa程度ですが、これがどれほど強靱なレベルであるかというと、ハイヒールを履いた体重60Kgの人物による圧力が12MPaですから、人間がどんなに踏んづけてもジルコニア冠を割ることは不可能でしょう。木の板の上にジルコニア冠をのせてハンマーでぶっ叩いたとしても、ジルコニア冠は割れることなく、板の中にめりこむだけといえばジルコニア冠の強靱さがイメージできるでしょう。

(次回に続く)

ジルコニアとはどういうものか?~3~

ところで、審美性に影響する透明度については、どうでしょう?じつは透明度の高い順に長石系セラミック⇒二ケイ酸リチウム系セラミック⇒ジルコニアの順に並びます。

透明度については、強度が最も低い長石系セラミックが最も高く、続いて二ケイ酸リチウム系セラミック⇒ジルコニアの順に透明度が低くなります。長石系セラミック(=ポーセレン)は透明性を伴っているので天然歯の色調を再現しやすく、従って従来からポーセレンメタルボンド(PFM)の前装部として用いられました。

二ケイ酸リチウム系セラミックの商品“e-max”も当初、色調の再現性はまずまずでしたが、最近になって審美性が改善されてきています。ジルコニアに至っては、初期のものはまったく不透明で真っ白なものしかなく、“なんじゃこれは、真っ白やん!”状態で全く天然歯とは異なった色調をしていました。しかしながら、ジルコニアは最近になって著しく進化してきており、“ジルコニアモノリシック”や“多層構造のジルコニア”の登場により、強度は若干落ちますが透明性が付与されて審美性がかなり向上しました。つまり“天然歯っぽい”ジルコニアが現在各社から販売されています。

まとめますと、セラミックの強度については、ジルコニアが最強で、続いて二ケイ酸リチウム系セラミック⇒ ガラス系セラミック⇒長石系セラミックの順に強度が低下します。透明度についてはその逆で、ジルコニア⇒二ケイ酸リチウム系⇒ガラス系セラミック⇒長石系セラミックの順に透明度が高まります。審美性と強度とは逆の相関関係なのです。

(次回に続く)

ジルコニアとはどういうものか?~2~

ここで、歯科用セラミックの種類とその特徴について少し説明します。歯科用セラミックはざっくり分けて、ガラス系とも呼ばれるシリカ系セラミックと酸化セラミック(非シリカ系セラミック)の二種類に大別されます。シリカ系セラミックに属するセラミックには、長石系セラミック (ポーセレン)、ガラスセラミック、二ケイ酸リチウム系セラミックなどがあります。そして酸化セラミックに属するものとしてジルコニアとアルミナがあり、アルミナは衰退傾向にあるのでジルコニアが酸化セラミックの代表といえます。

長石系セラミックは、従来からポーセレンメタルボンドの前装部の焼成に用いられてきました。ブロックとして販売されているものの一例としては“CEREC Block”™があります。ガラス系セラミックの一例としてはEmpress CAD”™、二ケイ酸リチウム系セラミックの代表的なものが”e-max”™です。そして、ジルコニアセラミックの例としては、Procera “Zirconia”™、3M Espe “Lava”™、Noritake ”KATANA”™、WIELAND “Zenostar”™、DENTSPLY “Cercon”、等々、現在、多くのメーカーから非常にたくさんの商品が販売されています。

いろいろな種類があるセラミックスですが、これらの特徴について簡単に説明します。もっとも強度が高いものがジルコニアで、900~1300MPa以上の破折強度をもつといわれています。次に二ケイ酸リチウム系セラミックのe-maxが400MPa、長石系セラミックは100MPa程度です。ちなみに保険の金属冠に使用される金銀パラジウム合金は700MPa程度、ゴールド冠に用いられる純度の高い金合金で200MPa程度、天然歯のエナメル質は100MPa程度なのです。数値が高いほど破折に対する抵抗性が強い=硬いと考えてよいので、ジルコニアがいかに硬いかがわかります。

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ジルコニアとはどういうものか?~1~

今日のテーマはジルコニアです。近年、歯科界にメタルフリーの時代が到来していますが、それはセラミックの進化に負うところが大きいといえます。コンポジットレジンも歯の白い色をだせるのですが、コンポジットレジンはセラミックよりもはるかに軟らかく、時間がたてば変化する歯科材料です。つまりコンポジットレジンは充填直後はツルツルと輝いていますが、経年的に表面がざらざらになってくるのです。一方のセラミックは陶材なので表面がツルツルであり、食器皿がそうであるように、長く同じ状態を保ちます。そのセラミックの中でも、現在主流となっているのがジルコニアです。

ところで歯科関係者の中にもジルコニアは金属であると思っている人がいまだにいるようですが、ジルコニアはセラミックです。たしかにジルコニウム(Zr)という金属元素が存在しているのでそのような誤解を生むのでしょう。ジルコニアは金属であるジルコニウム(Zr)と酸素(O)の酸化物であり、ZrO2 の化学式で表され、酸化されると金属ではなく、セラミックに分類される物性を持ちます。
(次回に続く)

セラミックの優位性 ~なぜセラミックは銀歯より優れているのか~ 6

四番目のセラミック冠の優れた点として、金属アレルギーがある方にも安心して使用できる点があげられます。

金属アレルギーの一つのタイプは、接触性皮膚炎の一種として、金属に触れる部分にじんましん、湿疹、強いかゆみなどの症状が現れます。ピアスホールが化膿したり、炎症が起こるのもその一例です。また、別のタイプは遠隔部位に湿疹をつくります。

金属アレルギーはどうして起こるのかというと、皮膚や粘膜に触れている金属部分から、金属イオンが溶け出し、体内にはないタンパク質が出来上がることが原因です。そのタンパク質が体内に入ると体の免疫システムがそれを異物、敵とみなし、アレルギーが引き起こされます。

歯科用金属によっても金属アレルギーが起こることがわかっています。接触性皮膚炎と同様に接触した口腔粘膜に炎症が現れます。金属アレルギーとの関連が疑われる難治性口内炎として口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)があります。

また、遠隔の部位に湿疹反応を起こすことがあります。手のひらや足の裏にできる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)はその代表です。「みずぶくれ」や「うみだまり」がくりかえし出来る病気です。囊胞の中に菌はいません。その他の遠隔部位の金属アレルギー症状として、じんましん、水疱、かゆみ、皮膚の紅斑が全身に発現します。

さらに、遅延型アレルギーという機序があり、金属が口の中に入ってもすぐには発症せず、数年後に症状が出現するものがあります。唾液に少しずつ金属イオンが溶け出し、体内に蓄積されたイオンが血液に乗って全身を巡り、あるレベルを超えると症状が発現します。歯科治療との関連性を判断するのに困難なケースです。

こういった金属アレルギーを気にしている方にはセラミックはおすすめです、セラミックは陶材であり金属イオンを全く含まないため、アレルギーの心配がありません。こういう観点からからもセラミックは銀歯に勝っています。

セラミックの優位性 ~なぜセラミックは銀歯より優れているのか~ 5

三番目のセラミック冠の優れた点として、審美性があげられます。セラミックは白く、銀歯はメタル色。歯は白く、自然に見えるのが美しいとする現代の価値観では、審美性においてセラミックが銀歯に勝ることはいうまでもありません。この点には議論の余地がないと思います。

 セラミックだけで歯を作ればきれいに見えるのはわかりきっているのですが、以前はセラミックだけでは強度が不十分だったために、メタルの強度に依存しなければなりませんでした。それが「ポーセレンメタルボンド」と呼ばれるものです。外層が審美性に優れるポーセレン(セラミックの一種で長石系セラミックのこと)、内層がメタルの二層構造をしており、両者は「融合」して一体化した構造になっていました。強度的には十分だったのですが、メタルは自然光を通過しないことから歯にエナメル質に相当する透明感を与えることが難しく、切端も歯頸部も同様の色調で“べたっ-”とした感じになりがちでした。また歯頸部(歯茎と歯との境目)は光学的にどうしてもメタルの性質が色濃く反映して黒ずんだ色調になっていました。下の写真は左上234がオールセラミックブリッジ、左上1(矢印)がポーセレンメタルボンドです。ポーセレンメタルボンドは歯頸部が黒ずんで見えます。

 そこで、この欠点を克服するために近年登場してきたのが「オールセラミック」です。オールセラミックとは文字通り、100パーセント、セラミックから出来ているセラミック冠です。このようなセラミックだけで冠を作れるようになった背景には、セラミックの進化があり、メタルに依存しなくても強度をだせるようになったからに他なりません。

 オールセラミックの特徴は、ポーセレンメタルボンド冠(セラモメタルボンド冠)の欠点を克服していることです。すなわち、オールセラミックは光を透過するのでより自然な感じの歯を作ることが出来ます。さらに、従来のポーセレンと呼ばれるセラミック(正確には長石系セラミックといいます)よりも強度が増しているため、前歯だけでなく臼歯にも使用できます。

 このような長所をもっていることから、現在ではオールセラミックがセラミック治療の主流になっています。オールセラミックといっても、その中にはいくつか種類があるのですが、セラミックのなかでもジルコニアセラミックが現在、ダントツで進化発展を遂げてきています。

 (次回に続く)

 

セラミックの優位性 ~なぜセラミックは銀歯より優れているのか~ 4

さらに、セラミック冠の製作方法は、現在ではCAD/CAM(“キャドキャム”と発音します)と呼ばれるコンピューターでデザインし、そのデザイン通りにコンピューター制御されたミリングマシーン(削りだし機械)でセラミックブロック(サイコロのような形をしたセラミックの塊)から歯の形をしたセラミックを削り出す方法が一般的です。このデジタル技術は高精度なので、出発点の印象が正確であるなら、その印象通りに正確に適合するセラミック冠が製作されます。印象が狂っていたら、狂ったなりのセラミック冠がつくられるということです。

 

ちなみに、保険で一般に行われている寒天+アルジネート印象からおこされた石膏模型からどのようにして歯の形が作り出されるのでしょうか?ラボにおいて「ワックスアップ→鋳造」といった技工士さんの手による昔ながらのアナログ技法で金属冠の製作が行われています。アナログでもかなりの高精度の技工物を提供することは可能ですが、手仕事である以上、技工担当者の技術格差はあるでしょうし、報酬単価が行政で決定されている保険診療の制限(簡単に言えば“採算の取れない行為は継続できない”というもの)の中で、大量の技工を受注しているラボにおいて一本の歯の製作にかけられる時間は限られているでしょう。納得のいくまで結果を追求することが許される環境ではないのです。そういった状況下で製作される保険の技工物と、“一球入魂”のタマシイの技工が許される自費診療で製作される技工物のどちらが安定的に高精度のクオリティーを維持できるかは容易に判断がつくでしょう。

 

日常診療において、保険で作成された金属冠をはずすと写真のような支台歯の辺縁部が虫歯になっているケースをよく見かけます。一方、稀ではありますが、チッピングなどでセラミック冠をやり直すためにそれを除去することがたまにありますが、まったくと言ってよいほど辺縁部の二次う蝕はみられません。除去するのにダイヤモンドバーで全周を削らないと除去できないほどセラミックと歯質とが強固に接着しているからです。だから細菌が侵入する余地を与えないのでしょう。

(次回に続く)