歯科用金属をめぐる不都合な真実 7 ~金属アレルギーの症状 2~

前回、原因の一つに金属アレルギーが考えられている掌蹠膿疱症の症状を紹介しましたが、一般には金属アレルギーとはどのような症状がどこに現れるのでしょう?
金属アレルギーは、金属が接触する局所粘膜や皮膚に症状が発現する「アレルギー性接触皮膚炎」と、全身の皮膚に症状が発現する「全身性接触皮膚炎」の二つのタイプがあります。そして、後者の方が圧倒的に発現頻度が高いことは覚えておいていいでしょう。
口腔局所の症状としては、最も多いのが扁平苔癬様の粘膜面(赤い部分と網目状の白い部分が混合した状態)(写真参照)で、さらに粘膜や舌の疼痛と発赤, 口唇の荒れや腫脹が比較的多くみられます。全身に表れる症状としては,湿疹、水疱、かゆみ、皮膚の紅斑の発生率が高いです。

ここで接触皮膚炎について言及しておきましょう。接触皮膚炎とは、簡単に言えば、外からのなんらかの原因物質が皮膚に接触することで赤みやブツブツ、水ぶくれが出現する疾患です。そして強いかゆみやヒリヒリ感、痛みをともなうこともあります。
接触皮膚炎の原因は大きく分けると「一次刺激性」と「アレルギー性」の2つに分けられます。まず一次刺激性接触皮膚炎は化学物質との接触や摩擦などで起こります。たとえば、シャンプーなどの洗剤に含まれる界面活性剤がありますし、便や尿も摩擦を伴って接触皮膚炎としてのオムツかぶれを起こします。また、食べ物も原因物質となり得、山芋や里芋、アロエやパイナップル、キウイフルーツ、桃などを食べた時に口のまわりにかゆみをともなう赤みが生じることがあります。

一方、アレルギー性接触皮膚炎は、原因物質に繰り返し接触したり、特定の物質でアレルギー反応が引き起こされたりして生じます。どちらの皮膚炎も、多くみられるのは化粧品や外用薬など皮膚に触れる日用品です。
それ以外では、金属がアレルギー反応を起こしやすい物質としてよく知られています。金属アレルギーの原因となるものとして代表的なのは、歯科用金属以外ではネックレスなどのアクセサリーや腕時計、硬貨、ベルトのバックルなどです。
(次回へ続く)

歯科用金属をめぐる不都合な真実 6 ~金属アレルギーの症状~

ところで、歯科金属アレルギーが起こると、どのような不都合が起こるのでしょう?このアレルギーは花粉や食物によるⅠ型(即時型)アレルギーのようにすぐに症状が出ません。Ⅳ型(遅延型)アレルギーといい、歯科治療でパラジウム合金を口の中に入れてから何年も経てから症状を出すことがあります。

歯科金属アレルギーの主な臨床症状は、金属との接触部に起こる接触皮膚炎や粘膜炎、そして口腔から離れた遠隔部位の湿疹や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などです。

症状が口腔から離れた部位に現れた場合、たとえば手のひらや足の裏など、全身に症状があらわれることがあり、歯科治療が原因とすぐに診断がつかないことがあります。たとえば皮膚科疾患として扱われる掌蹠膿疱症がその一例ですが、この疾患は手足、足底に多数の「みずぶくれ」や「うみだまり」をくりかえし作る病気です。そして膿の中には細菌がいないので人に感染しません。皮膚科でステロイド剤や抗アレルギー剤、等で対応していますが、改善が見られない場合は歯科治療で行われた銀歯の金属アレルギーを疑う必要があります。
ちなみに掌蹠膿疱症の原因や発症機序は完全に解明されていません。そして金属アレルギーだけが原因ではなく、喫煙、扁桃炎や歯周炎などの病巣感染、ビタミン(ビオチン)不足、遺伝的要因など、いろいろな原因が考えられています。しかし、金属を除去することで症状が改善することも多く報告されているので、金属アレルギーの可能性を常に考えておかねばなりません。

症例写真は以下のホームページで参照出来ます。
https://www.dermatol.or.jp/

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歯肉炎

 

歯肉炎とは歯茎が腫れる症状です。
ひどくなると歯周病になります⚡

 

 

言い換えれば歯周病の初期段階が歯肉炎なのです。

 

 

歯肉炎になったままほおっておくと歯周病になってしまいます‼
歯周病は最悪の場合、歯が抜けてしまう病気です😨

 

 

歯肉炎になると、出血したり、歯茎が傷つきやすくなったりします💦

 

歯肉炎や歯周病になってしまう原因として、
清掃不良があげられます。

 

 

 

磨き残しが多かったり、歯並びの影響でうまく磨けない箇所があったりなどで、
プラーク(歯垢)がたまると、そこに歯周病菌が集まってくるのです👿

 

では歯肉炎や歯周病を見つけるために歯科医院ではどのような検査を
するのでしょうか❓

 

まずは歯と歯茎の間の溝の深さを測ります
3mm以下だと正常値です✨

 

それ以上あると歯周病の病名がつけられます。

 

あとはどの歯のどこに磨き残しがあるかを調べたりします🔍

 

また、歯周病が発症すると骨が溶けてきたりするので
骨の状態を確認するためにもレントゲンを撮影します📷

 

 

では歯周病になってしまったらどういう治療をするのかですが、
まずは歯科衛生士さんによる歯のお掃除です。

 

 

浅い部分の汚れはお掃除でとれます🌷

 

 

さらに歯磨き指導をうけます。
人間には癖がたくさんあるように、歯の磨き方にも癖があります。

 

 

 

そのせいで磨けていない部分や、磨きにくい部分がありますので、
そこを歯科衛生士さんに教えてもらうのです🌱

磨きの残しが歯周病の原因なので、汚れを除去することが目的です😉

 

表面の汚れをとるだけで歯周病が改善に向かわない場合は、
手術の必要があったり、保険外での光殺菌治療が必要になります😱

 

 

磨きの残しがないように努力して、定期的に歯科衛生士さんに
汚れをとってもらいましょう👆

 

 

トリートメントコーディネーター 松本

 

 

 

 

歯科用金属をめぐる不都合な真実 5 ~金銀パラジウム合金~ 

二番目の有害金属は「金銀パラジウム合金」です。歯科では通称「キンパラ」と呼ばれている合金です。その組成はJIS規格で、金12%、パラジウム20%、銀50%前後、銅20%前後、その他インジウムなどが数%となっています。この金属は強度があるため大臼歯にも応用でき、わが国では健康保険でつくられる金属冠(被せもの)や金属充填物(詰め物)の中心的材料です。しかしながら、この「金銀パラジウム合金」は有害性があります。金属アレルギーを起こしやすいからです。この金銀パラジウム合金に対し「リンパ球幼若化検査」をすると約半数の人に陽性があらわれるといわれます。この検査が陽性反応を示す意味は、この金属はその被験者にアレルギーを引き起こす可能性があるということなのです。

この「金銀パラジウム合金」の成分のうち、なにがアレルギーを引き起こすかといえば、パラジウムと銅がその可能性があります。金は貴金属で生体のなかで最もイオン化傾向が低く、また銀もイオン化傾向が低いので、ともに金属アレルギーを引き起す可能性は低いです(とはいえ、金に対してもアレルギーが起こることがあります)。(しかし、金属アレルギーの検査を行うと、意外と結構な頻度で、金がアレルゲンとして反応することが知られています)しかし、残りのパラジウムや銅はイオンとして溶け出し、金属アレルギーを起こす可能性があるのです。なので、欧米などの先進諸国ではパラジウム合金は使用禁止となっています。
たとえば、ドイツの保健省では、1993年に歯科業界に対し、妊婦や小児に歯科治療でパラジウム合金、水銀、銅、銀アマルガムを使用しないように勧告しています。スウェーデンでも、すでに1987年の段階で、パラジウムは妊婦と小児には完全に使用禁止です。
しかしながら、日本の厚生省は、金銀パラジウム合金が有害であることを認識しつつ、ある理由から、日本だけで使用される非常に特殊な歯科用合金の使用を認めています。そのある理由の一つに口腔内に耐える硬さがあり、また比較的安価であったことが挙げられます。社会保険制度を守るために、コストの高い貴金属(金、白金)ではなく、コストの比較的低いパラジウムを使う必要があったのです。
しかしながら、昨今、パラジウムの価格は世界的に高騰してきており、もはや低コストだからという理由は合理性を失いつつあります。むしろメタルフリーの材料の方が低コストとなりつつある状況です。
(次回に続く)

歯科用金属をめぐる不都合な真実 4 ~歯科用アマルガムから発生する水銀蒸気と健康への影響~

水銀による健康障害に関する報告の大部分は職業上の暴露の面からのものが多いです。職業上の暴露とは、たとえば水銀を扱う工場の従業員が業務環境下で水銀蒸気に暴露することです。   
 水銀中毒の典型的症状は、前述のように、振戦、エレチスムと呼ばれる神経症状、口内炎ですが、それ以外に易疲労感、食欲不振、体重減少、消化器症状、腱反射減弱、構音障害、記憶力減退、不眠、性欲減退、などの症状が水銀の慢性中毒に伴うことが知られています。職業性の水銀暴露と臨床症状の関係について、Nealらは気中水銀濃度が100μg/m3 以上で振戦、精神障害、頭痛、眠気、不眠等が起こることを示唆しています。しかし、気中水銀濃度が10μg/m3以下では中毒症状は起こらないとされています1)。

 さて、口の中に入れている歯科用アマルガムから蒸発する口腔内気中の水銀濃度ですが、Vimyらは35人の歯科用アマルガムが歯に充填されている被験者のベースの口腔内の気中水銀濃度を測定し、次にガムを30分間咬んでもらったあとで測定し、その値からベースを差し引いた値の平均は29.8μgであったと報告している。また、同じレポートにおいて、被検者をアマルガム多数群(アマルガムが咬合面に12個以上充填されている群)とアマルガム少数群(アマルガムがに4個以下)に分けて同様の測定をしたところ、多数群では30分後に43μg/m3まで上昇し、その後19.5μgまで下がってプラトーに達したが、少数群では10分後に12.4μg/m3に達し、その後11.4μで安定したと報告している2)。

 さて、咀嚼によって歯の中に詰められているアマルガムの表面から水銀蒸気が口腔の気中でてくるのですが、この咀嚼30分後の29.8μgや43μg/m、また10分後の12.4μg/m3といった数値をどうとらえたらいいのでしょう?前述のVimyらのレポートでは、アマルガム多数群の水蒸気圧で示された測定結果を体内取り込み量へ換算したところ、体内取り込み量は30μg/日(7日間で210μg)であったと報告し、この数値はWHOの水銀に対する成人の暴露許容量の「7日間で300 μg」(WHO 1972)に迫るものであり、アマルガムが水銀暴露源となって慢性水銀中毒を引き起す可能性があるとしています。
             
1) 秋葉陽介,渡邉 恵,峯 篤史, 池戸泉美, 二川浩樹: 歯科金属アレルギーの現状と展望. 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 8 : 327-339, 2016
2) Vimy MJ, Lorscheider FL:Serial measurements of intra-oral air mercury: estimation of daily dose from dental amalgam. J Dent Res. 1985 Aug;64(8):1072-5.
(次回へ続く)

歯科用金属をめぐる不都合な真実 3 ~水銀に関する水俣条約Minamata Convention~

前述したように、水銀が人体に極めて深刻な健康被害を起こすことは、政府公式見解として認められています。そして、水銀の使用を全世界的に制限する方針は、水俣病を経験したわが国において2013年に開催された世界会議(地球規模の水銀汚染の段階的防止を目指して2013年10月7日から11日まで、熊本市及び水俣市で水銀に関する水俣条約の外交会議及びその準備会合が開催)において確認されました。そして同会議は60か国以上の閣僚級を含む約140か国・地域の政府関係者の他、国際機関、NGO等、1,000人以上が出席し、「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention)」が全会一致で採択され、92か国(含むEU)が条約への署名を行いました。そして、本条約は法的拘束力のある条約として、平成29(2017)年8月16日に発効しました。

水俣条約(Minamata Convention)」においては、歯科用アマルガムを含み、水銀の使用を必要とする全産業における水銀製品の使用を段階的に制限していく具体的方策が提示されています。こういった世界的トレンドを背景として、わが国では2016年4月の歯科診療報酬改定(厚生労働省)以降、アマルガム合金の使用は健康保険から姿を消しました。
 しかし、世界規模でみると、水俣条約以降、直ちに地上からアマルガムが消えてしまったわけではありません。現在でも一部の臨床家は材料学的な過去の実績を評価し、その使用を続けています。例えば先進国アメリカにおいても、アマルガムは臨床の現場から消えてはいませんが、常にアマルガムが非水銀性充填材料であるコンポジットレジンと比較して機械的強度は大丈夫か、長期予後はどうなのか、という臨床成績に関するメタアナリシスやシステマティックレビューが繰り返し試みられています。そして、近い将来、アマルガムの代替材料がアマルガムと遜色ないという結論が科学的根拠と共に示される日が来れば、その時点でアマルガムは歯科材料としての使命を終えるでしょう。
(次回へ続く)

歯科用金属をめぐる不都合な真実 2 ~水俣病の症状は水銀中毒~ 

前述の水俣病の症状は水銀中毒の症状です。水銀中毒は、有機水銀による中毒と、無機水銀による中毒の二種類に分かれます。水俣病は有機水銀であるメチル水銀の中毒です。メチル水銀は腸管から吸収され、肝臓、腎臓、及び脳に蓄積されます。

一方、無機水銀の中毒の例というと、歯科のアマルガムがあげられます。アマルガムは合金ですが、水銀は蒸気圧が高いため、室温でも容易に蒸気になります。アマルガムから気化した水銀蒸気が肺から吸収され脳やその他の臓器に蓄積します。アマルガム充填者血液中水銀濃度はアマルガム充填本数やアマルガム表面積と高い相関関係が認められることが報告されています。またアマルガム充填者の死亡後の剖検例では、アマルガム充填者の水銀濃度がアマルガムを充填していない対照者に比べて、後頭皮質で約2倍、腎臓で約10倍高いことが報告されています。無機水銀は体内で代謝され、メチル水銀に代わります。
このような歯科用アマルガムから無機水銀が体内に入った場合、中毒症状としては、最初に食欲不振、体重減少などの消化器症状が現れ、続いて振戦、エレチスムとよばれる神経症状(些細なことで怒ったり、意味のないことに悲観したり、失望したり、人と会うことを極端に嫌がったりなどの性格が極端に更新した状態)、口内炎(水銀口内炎と呼ばれる)が三大症状と言われています。
(次回に続く)

歯科用金属をめぐる不都合な真実 1 ~アマルガム~ 

今日は歯科用金属の話をしましょう。現在、歯科界にメタルフリーの潮流が押し寄せてきている背景には、国民の健康意識水準の高まりに伴い、人体に対するメタルのマイナス効果への配慮があります。つまり、歯科用金属が健康被害をもたらす可能性があるのです。以下、具体的に言及します。

まず有害金属の筆頭は「アマルガム」です。アマルガムは水銀を含む歯科用合金で、その組成は、銀(65%以上)、スズ(25%以上)、銅(6%以上)、亜鉛(2%以下)、水銀(3%以下)(JIS規格)となっています。歯科で全世界的に長年、充填材料として用いられてきましたが、わが国では2016年4月の診療報酬改定(厚生労働省)でアマルガム合金は健康保険から外され、廃止となりました。水俣(みなまた)病の原因が有機水銀であることを厚生省が表明したことで、水銀が人体に極めて重大な害を及ぼすことが決定的となったことが背景にあります。

水俣病は水俣にあったチッソ水俣工場のアセトアルデヒト製造工程で排出されたメチル水銀が工場排水と共に排出され、環境を汚染し、汚染された魚介類を地域住民が食べたことが原因と断定されました。

水俣病の症状として、主に出現するのは中枢神経系の異常で、主に脳が障害されることで引き起こされます。具体的には、頭痛をはじめ、四肢末端、舌、口唇の痺れ、深部及び表在知覚障害、運動失調や構音障害、振戦といった小脳の症状、不安、抑鬱、興奮、不眠といった精神症状、視野狭窄、難聴、唾液分泌過多や発汗異常といった自律神経の症状などが見られます。
(次回に続く)

ジルコニアをめぐる根拠なき懸念

このように、最近になって目覚ましく進化、発展しているジルコニアセラミックスですが、以前からこの臨床使用に関して、ある懸念が臨床家の間でささやかれてきました。

 

その一つに、「ジルコニアは固すぎて対合歯を摩耗させる」というものがあります。この疑いに対しては十分な検証がなされ、現在ではエビデンスを伴って否定されています。確かにジルコニアは固いので、もしも対合と接触するジルコニア表面が「やすり」のようにギザギザになっていれば、確かに相手の歯の咬合面を摩耗させます。しかし、ジルコニア表面が本来の滑沢な面に仕上げ研磨されていれば対合歯の摩耗は全く起らないことが分かっています。むしろ、他の材料と比較して最も対合歯を摩耗させない素材であるという報告が多くなっています。

 

また、もう一つの懸念として、「ジルコニアは、硬すぎるので、ジルコニア冠は壊れなくても、そのジルコニア冠を乗せている歯を割ってしまう」というものもあります。こういった懸念の根底には、補綴物に強い力がかかった場合に、力が歯に致命的な打撃を加える前に、力を逃がすために冠の軽度の「かけ」、あるいは穏やかな「摩耗」が起きる方がまだましではないか、とする発想があるのでしょう。

 

しかしながら、こういった懸念を裏付けるエビデンスは今のところありません。数年前、このことがすごく気になり、硬すぎる歯冠修復物が歯根を破壊する可能性を示す文献を探しましたが、結局見当たりませんでした。一般に、歯冠修復物が歯根を破壊する原因として、歯冠の素材以外に、生活歯か失活歯か、コアが入っているのかいないのか、そのコアはメタルコアなのかファイバーポストなのか、コアの形態は歯を割るような応力の集中が起こりやすい形態か否か、マージン部にフェルールが存在したか否か、ブラキサ―か否か、などなど多くの要因があります。あまりに多くありすぎて、歯冠修復物の素材の硬さ以外がすべて同じ条件で比較することなど不可能なので、歯冠修復物の硬さと歯根破折との相関性を証明する疫学的調査は出ないのだろうと思います。

したがって、硬いジルコニア冠を乗せると、長期的に歯根が疲弊し、最後に歯根破折を起こすというような懸念はエビデンスがなく、都市伝説の類であろうと思われます。また、懸念の声が聞かれる一方で「完璧に咬合調整が行われるならば、歯冠修復物が硬いからといって、歯根破折を起こすことはない」と言い切る臨床家もいます。

 

歯根破折の発生率と破折をきたす歯が乗せていた歯冠修復物の素材の種類との関係は不明です。

ジルコニアセラミックの進化 ~3~

そもそもジルコニア冠が世に出た時のものは単層構造でした。光透過性がなく、真っ白で審美性がよくありませんでした。だから、従来のPFMが金属(Metal)に陶材(Porcelain)を焼き付けて(Fused)金属色を隠したように、ジルコニアのフレームに陶材を焼き付けてジルコニアの色を隠したのです。この状態がいわゆる“ジルコニアボンド”です。しかしながら前装部の陶材は従来の強度の弱い長石系なので、強いものと弱いものが同居しているがゆえの問題点が出てきたというわけです。

 

そこで、この問題を解決する方法として着目されたのが、ジルコニア単独で修復物を製作する方法です。前装陶材に頼らず、ジルコニア単体で審美面も満足できるものができればこの問題が解決できるわけです。そこで、最近開発されたのが光の透過性を高めたジルコニアで、高透過性PSZ(部分安定化ジルコニア)といいます。

 

世に出始めたころのジルコニアは正方晶ジルコニア多結晶体(従来型TZP)というもので、結晶相の大部分が正方晶(tetragonal)で、約3mol%のイットリア(Y2O3)と約0.25wt%のアルミナ(AL2O3)を含有していました。これを3Y-HAと称します。前述のように従来型TZPは光透過性が低い難点を有していたので、最近になって次々とこの従来型を改良したものが登場してきました。

まず、アルミナの含有量が多いと透光性が低下するので、アルミナの含有量を0.05%にまで減少させることによって透過性を向上させた高透過性TZPが登場し、これを3Yと称します。

次に、イットリアの含有量を5mol%に増加し、透過性をさらに向上させたものが高透過性PSZ(部分安定化ジルコニア)で、5Yと称します。この結晶相は立方晶(cubic)が多く、ダイヤモンドと同様に偏光が生じないので透過性がさらに良くなりました。半面、PSZ系ジルコニアはTZP系ジルコニアに比較して機械的強度が低下するという弱点を併せ持つようになります。

さらに、イットリア含有量を4%、6%に増加させたもの(4Y,6Y)や、単層ではあるがグラデーションに着色された積層構造(multi layered)のもの(組成はモノリシックだが色の層が積み重ねられている)、あるいは切端側が透過性の高い層、歯頚部が機械的強度の高い層を配した二つのジルコニアの積層構造のもの(3Y-5Yや4Y-5Y)など、次々と販売され始めています。

(次回に続く)