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モディファイド・オベイト・ポンティック 

 昨日、ポンティックに要求される要素のうち、清掃性とそれ以外の要素(食物停滞、発音、審美性)とは二律背反と書いた。しかし、最近になって、比較的ポンティックが必要な条件がバランスよく満たされているデザインが登場してきた。ポンティックに具備される条件の追求には歴史的変遷がある。初期のものは清掃性を重視したサニタリータイプと呼ばれるもので、このタイプは基底面を極端に粘膜面から離して全く粘膜に接触させない極端なもので、歯には見えない代わりに清掃性は抜群に良い。その反面、食渣の停滞や、発音障害、舌感の悪さ、そしてなんといっても最悪の審美性が欠点であり、今日の臨床の現場からは姿を消した。

 比較的古典的なものはリッジラップ、モディファイドリッジラップであるが、両者とも粘膜に面する面が凹面であり、フロスによるデブリスの完全除去が出来ない。その後、1980年代に出てきたオベイトタイプは粘膜に向かって凸面を形成しているのでフロスによるデブリスの完全除去が可能となった点がすぐれている。また、唇面と基底面の隅角部が粘膜の中に埋もれこんでいるので、あたかも歯肉から歯が生えているようにみせることが出来、エマ―ジェンスプロファイルがリッジラップに比べて良好である。このオベイトの適応を可能にするためには、粘膜面をバーで削合し、窪みを作り出す必要がある。

 今日紹介するものは、オベイトタイプをさらに改良したモディファイド・オベイト・ポンティックだ。基底面のカウンターが唇側寄りにあり、歯槽幅が狭くても適応可能である利点がある。ポンティック基底面および、ポンティックと向かい合う粘膜面の清掃もオベイトタイプに比べてより容易になっている。

以下に、モディファイド・オベイト・ポンティックの利点をまとめる。エマ―ジェンスプロファイルを適正に設定できる、機能的、清掃が容易、空気や唾液のリークを防止できる、歯間乳頭を温存できる、ブラックトライアングルを防止できる、リッジオーグメンテーションが不要。

 と、まあ、いいことづくめということになる。

 

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1a: リッジラップ 1b:モディファイド・リッジラップ 1c:オベイト 1d:モディファイド・オベイト 図は文献(1)より引用

 

参考文献

(1)J Esthet Restor Dent. 2004;16(5):273-81

Use of a modified ovate pontic in areas of ridge defects: a report of two cases.

Liu CL.

 

ポンティックは根面カリエスとペリオのリスク因子

 ポンティックの形態は重要だ。その形態の違いによって、清掃性や食渣残留、発音、審美が異なって来るからである。これらの要素はいずれも重要なのだが、清掃性への配慮は特に重要である。なぜなら、ポンティック下方の粘膜面には、たとえハイポリッシュされたセラミックであったとしても、そして口腔清掃が良好であったとしても、セラミック表面と粘膜表面にはわんさか細菌叢が存在することがわかっているからだ。その細菌叢を調べてみると、むし歯や歯周病の原因菌がしっかり存在する(1)。つまり、ポンティックはアバットメント(支台歯)のカリエスとペリオのリスクファクターなのである。

 したがって、ポンティックの清掃をどのようにして行うかが問題だが、清掃性を重視すると、歯間スペースを大きく開放し、歯間ブラシがスカスカに通るようにすればよい。なおかつ、フロスをポンティック下方に通過させ、ポンティック基底面を吊り上げるように上方にテンションをかけながら近遠心的にぬぐうような作業をすればよい。しかし、歯間スペースを大きく取ることは、食渣の停滞、発音時の空気の漏れ、審美性の低下を伴うことになり、清掃性とそれ以外の要素とは二律背反となる。

参考文献:

Rom J Morphol Embryol. 2013;54(2):361-4.

Pontic morphology as local risk factor in root decay and periodontal disease.

Dina MN1, Mărgărit R, Andrei OC.Rom J Morphol Embryol. 2013;54(2):361-4.

 

 

 

 

ペリオは臨床的には治癒させられる疾患

 歯周病は厳密な意味では治癒のない疾患であると以前に書いたが、臨床的には十分治癒する。快適な口腔内環境を継続的に維持することは可能だ。歯周病原菌を口腔内から絶滅させることはできないが、臨床的に問題となる症状を起こさない程度にその数を一定レベル以下に抑えておきさえすれば、それが可能となる。その方法とはそれほど困難なものではないが、要はそれをやるかやらないか、だけの問題だ。要するに患者さん本人のやる気の問題で、治りたいと強く願うのであれば、治る方向に向けて自助努力してくれれば結果は必ずついてくる。歯周病とはわけのわからない、複雑怪奇な病変ではない。ただの感染症の一種に過ぎないのだ。治癒に向かわせるその方法論はすでに明確になっている。

 

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治療前右側方

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治療前正中

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治療前左側方

 

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治療後右側方

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治療後正中

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治療後左側方

 

上の写真は、上段が治療前、下段が治療後の歯周病患者さんの口腔内写真だ。行った治療は、歯周基本治療と歯肉剥離ソウハ術のみであり、すべて保険の範囲内だ。歯周再生療法を用いなくとも、ここまではきちんと炎症を終息させられる。ペリオは臨床的には、十分、治癒させられる疾患である。

インプラント補綴は高精度が要求される

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このような無歯顎の状態にインプラントフルブリッジを製作する場合は、細心の注意と共に高い精度で作業することが、歯科医院側にも、ラボ側にも要求される。スクリュー固定式だから、多少、フレームとアバットメントがすいていても、ねじ込んでしまえば入ってしまう、と安易に考えてはいけない。許容の範囲を超えた不適合補綴物を無理やりねじ込むと、補綴物か、インプラント体か、または周囲骨がダメージを受けて破壊されるからだ。

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アバットメントレベルの印象採得は、このようなアバットメントの三次元的位置情報をトランスファーするインプレッションコーピングをアバットメントに正確に接続し、各コーピングをシリコン精密印象でピックアップする。このような複数のインプラントの三次元的位置情報を正確に作業模型に取り込む方法はいくつかあるが、今回は、今のところ当院とデンタルラボとで取り組んでいる方法を紹介しよう。

 

 

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先ず、通法通り各コーピングをシリコン印象内に取り込む。この時、各コーピングが口腔内と全く同じ状態を反映出来ているとは限らない。シリコン印象の誤差のリスクがあるからだ。

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左の印象で起こした模型上で各アバットメントに接続したシリンダーをゆるく取り込むような剛性の高いメタルフレームを作製する。このメタルフレームはキャストではない。そして、試適の目的だけに製作される。口腔内で各アバットに接続したシリンダーを、フレーム内のホールに取り込む形とし、その状態で即重レジンを用いてそれぞれのシリンダーをメタルフレームと固定していく。この際、テンポラリーシリンダーとフレームを軽くレジンで固定していれば、スクリューでしっかりアッバットとシリンダーを締結した時点でシリンダーがフレームから外れれば、誤差の存在を示すことになる。ベリフィケーションインデックスとして使用できるわけである。

 

 

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各テンポラリシリンダーとメタルフレームとの位置関係を確認し、その接続を強固にする為、メタルフレームに用意されているホールから即重レジンでシリンダーを固定する。

  むろん、各アバットとシリンダーとの接続を、デンタルXPで確認しておく。

 

             

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結果として、メタルフレームによって束ねられた各シリンダーとメタルフレームが一塊として口腔外に取り出される。これが、口腔内の各アバットメントの三次元的関係を示す正しいインデックスとなる。このような注意深い観察と細心の注意がインプラント補綴には要求される。

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一方、咬合高径や咬合平面の決定には、総義歯臨床の手法がそのまま応用できる。何にもない空間に、歯列を作り出す技術は総義歯臨床の基礎力が必要だ。

 以上、当院で試みているインプラントフルブリッジの精度を確保する一法を紹介した。

 


 


 

 

咬合平面へのこだわり

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 以前にも書いたと思うが、自分の臨床の中では咬合平面を重視している。これが正しく設定されないと咬み合わせに使われる筋肉の緊張に左右差や前後差が生じてしまい、その結果、頸椎が傾き、頭痛や肩こりを引き起こし、ひいては脊椎全体のアライメントを歪ませ、腰痛や下肢痛を引き起こしかねないからだ。

 局所だけの治療で咬合平面の是正は出来ないが、全顎的治療ならばそれが可能だ。今回、右上臼歯部の2本のインプラントに上部構造を装着したが、上顎の補綴物に理想的咬合平面を付与することにした。対合、および反対側の上下臼歯の歯冠修復も今回、当院で再製する対象として治療をスタートした。すなわち全顎治療だ。

 

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右上臼歯部インプラントに、このようなジルコニアフルミリングブリッジを装着した。

 

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装着時、対合とは咬合接触していない。上顎の咬合平面を基準として、対合も後でやり替える予定だからだ。

 

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他院で治療を受けられたインプラントがトラブルを起こして当院にお見えになった際の初診時パノラマ。咬合平面は臼歯部で右下に傾斜しており、スピーの弯曲も逆になっている。

6本のインプラントのうち、4本を撤去して新たにインプラント植立させて頂いた。

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右上インプラントにセラミックブリッジが装着された際のパノラマ。まだ治療途中だが、咬合平面とスピーの弯曲が正常化している。

 

 

いわゆる従来型の部分義歯とインプラントブリッジは共存できるか?

 インプラントと、取り外し自在な従来型の義歯を口腔内に共存させることは結構多い。新しいものと古いものとのコラボという感じだが、この場合の義歯はインプラントが義歯を下支えすることでサポートする格好となるのが一般的だ。インプラントの上にかぶさっていく格好になるインプラントオーバーデンチャーといわれるものだ。義歯は本来、ふわふわした粘膜の上に乗るものだから、どうしても咬み圧で沈下したり、側方に若干移動したりする。ところが、インプラントは顎骨の中で動かないので、これにかぶさるインプラントオーバーデンチャーは顎骨にリジッドに固定される。アバットメントと呼ばれる接続装置を介在させるからだが。総義歯の場合、無歯顎の顎堤に2本、ないし4本インプラントを埋入する。こういった形で使用されるインプラントが義歯の維持、安定にもたらす貢献は臨床研究で十分に確認されている。

 ところで、総義歯は避けたいのでインプラントを考えるわけだから、インプラントオーバーデンチャーの受け入れに躊躇するというケースがある。この場合、インプラントの一般的な使われ方であるインプラントをブリッジの支台として使用し、インプラントブリッジで歯列を構成することになるのだが、その場合、インプラントを埋める場所に制限が加わることがある。たとえば、上顎の臼歯部は上顎洞底が歯槽頂に接近し過ぎているとサイナスリフトが必要となり、高齢者にはいささかハードルが高くなる。そこで、前歯部にはボーンアンカードブリッジ(=インプラントブリッジ)、無歯顎の臼歯部にはブリッジの咬合面遠心端にレスト座とクラスプをかけて従来型の部分義歯をのせるというアイデアが浮かぶが、そのような例はあまり一般的でない。そこで、そういった臨床例がないか調べてみた。

 結論から言うと、インプラントブリッジと従来型の部分義歯との共存は可能だ。ただし、インプラントブリッジと部分義歯との接続部に精密なアタッチメントを用い、かつその連結はリジッドではなく、多少義歯がフリーに移動出来るものでなければならない、という条件が付くのだが。安易に、インプラント上部構造のクラウンブリッジに、従来型のエイカースクラスプなどはかけないほうが良いと思われる。エイカースクラスプのクラウンへの接続様式はリジッドであり、強固にクラウンをホールドし過ぎるからだ。

 インプラントブリッジがメインで、アバットメントの介在により従来型の義歯がサブとして使用が可能になる、というのはインプラントオーバーデンチャーの場合と両者の位置づけが真逆になっているようで、面白い。 

参考文献:Precision attachment case restoration with implant abutments: a review with case reports. Feinberg E.J Oral Implantol. 2011 Aug;37(4):489-98. 

インプラント周囲炎を起こし易い上部構造の形態

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 右の写真の左の端のインプラントの上部冠は、これから上部冠を作製するための試作段階のアバットメントと試作冠だ。適合度をX線で評価できるようにメタルとレジンで出来ている。

 ところで、この試作冠の形態はあまりよくない。二つよくないところがあって、一つ目はアバットメントの高さが低すぎること、二つ目はアバットメントと冠辺縁の移行部に隅角が存在しアンダーカットができてしまっているところだ。いずれも、将来、インプラント周囲炎を引き起こす原因になり得るので、明日、テクニシャンとディスカッションしてファイナルではこの点を改善する予定だ。

 

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 なぜアバットメントの高さが低くなるかというと、テクニシャンは審美を優先して、冠辺縁を歯肉縁下に入れこもうとするからだ。隅角が生じてアンダーカットができるのもその理由から。ところが、これはよくない。アバットメントと冠辺縁の移行部のレベルは、審美が関係ない臼歯部なら歯肉縁でよい。審美が重要な部位で冠辺縁を歯肉縁下に入れたいならアバットメントの高さ(プラットフォームから冠辺縁までの距離)が2ミリ以上確保できる程度にインプラントを深く埋めて置かなければならない。

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審美領域でないなら、アバットメントのメタルが歯肉縁からちょっとはみ出していてもいいではないか、と考えている。それくらいに思うほど、インプラント周囲炎は嫌なものであり、是が非でも避けたい。

インプラント周囲炎を引き起こしやすい上部構造の形態について、本HP内の「Dentist」に書いているので、是非読んで行って欲しい。

 

 

インプラント表面の性状の違いで、なぜ骨との結合スピードに違いが出るか?

 今日、抜歯即時埋入したストローマンBLTインプラントのオステルを計測したら]、66~67の数値を打ち出していたので驚いた。埋入後、まだ50日しかたっていないからだ。前にも書いたが、一昔前は、オッセオインテグレーションに至る平均期間が3~6カ月であったことを考えると、現代のインプラント表面性状の進化が骨との結合期間を著しく短縮していることに驚嘆する。そこで、今日は、インプラント表面性状の何が変わったから、これだけ骨との結合スピードが上昇したのかについて調べてみた。

 インプラントの表面が具備する性状が骨と結合するスピードに影響を与える具体的要素として、表面トポグラフィー(表面粗さ、細かな凸凹具合)、化学的性質、表面の荷電、濡れやすさ、といったものが挙げられる。1999年に発表されたストローマンのSLA(Sand-blasted Large-grit Acid-etched )サーフェイスを例にとると、先ず、表面粗さだが、サンドブラスト処理してマクロラフネスが与えられ凸凹になった表面に、さらに酸エッチング処理することで2-4μmのマイクロピットが出来上がっている。このような粗造な面が骨界面となった場合、骨芽細胞様細胞の増殖や分化、タンパク合成に有利とされ、従来のTPSサーフェスに比較して治癒期間が短縮された。さらに、SLAサーフェスに新たな改良が加えられ、2006年 世界初の親水性表面構造(hydrophilic surface)が開発され、SLActiveとして発売された。これは酸化チタン表面に親水性を具備させたもので、要は濡れやすい性状を獲得させた。これにより分子表面が水のシェル構造でくるまれた形で存在するタンパクなどの生体物質がよりインプラント表面に付着しやすい環境を作り出すことに成功した。その結果、SLAサーフェイスよりさらに治癒期間が短縮された。

 と、ストローマンのインプラント表面性状の例を出して説明したが、各メーカーともインプラント表面で骨形成が速やかに行われるような環境づくりに貢献できるような表面性状の開発に心血を注いでいるわけだ。そのおかげで、インプラント治療は確かに治療期間が短縮されてきた。これは患者にとっても、歯科医師にとっても感謝すべきことである。

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参考文献:

Bornstein MM, Wittneben JG, Brägger U, Buser D. Early loading at 21 days of non-submerged titanium implants with a chemically modified sandblasted and acid-etched surface: 3-year results of a prospective study in the posterior mandible. J. Periodontol. 2010 Jun;81(6):809–18.

ブラキシズムによる歯の摩耗

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 ブラキシズムは口腔の健康維持にとって、大いなる脅威だ。ブラキシズムとは、喰いしばりや歯ぎしりのことをいうが、多くの口腔組織の破壊現象を引き起こす。歯の摩耗はその一例。右の写真は下顎前歯がブラキシズムにより、対合歯と擦り合わされた結果、著しく摩耗している。対合歯がメタルであればテキメンだが、メタルでなく天然歯であってもこうなる。

 歯の摩耗以外に、知覚過敏や顎関節症、頭痛、肩こり、腰痛や下肢痛など、多くの全身的な不調を引き起こす原因となる。だから、全身の健康維持のために、ブラキシズムに対して適切な対応しないといけないのだが、実はこれが厄介なのだ。現在のところ、ブラキシズムは中枢神経に由来するイベントなので、これを歯科的手段で止めることは出来ないと考えられているからだ。

 ブラキシズムについては、本HP内の"Dentist"に自分のリサーチ、「咬み合わせとブラキシズム」を載せているので、是非読んで行って欲しい。

 

 

咬み合わせと眼科

 咬み合わせの不調和があると、さまざまな全身的な不調が引き起こされるという話はよく聞く。たとえば、咬み合わせがずれると、頭痛、肩こり、腰痛、下肢痛、うつ、めまい、難聴、耳鳴り、視覚障害、生理不順・生理痛、手の冷え、足の冷え、汗をかく、アトピー、アレルギー性鼻炎、花粉症、胃腸障害、便秘・下痢、四十肩、五十肩、などなど。しかし、これらの症状のうち、咬み合わせと関連するエビデンスの明確なものは、私のリサーチの限りでは、頭痛、肩こり、腰痛、下肢痛、うつ、めまい、難聴、耳鳴り、視覚障害までだ。これらは咬み合わせと関連することがしっかりとした学術雑誌に報告されている。生理不順、以降は、おそらく咬み合わせと関連するのは事実だろうが、今のところ国際的な学術雑誌を対象とした場合、これらの症状が咬み合わせと関連するエビデンスを報告した文献を検索できない。

 さて、今日はエビデンスがあるものの最後に挙げた視覚障害と咬み合わせとの関連性について書く。実は、これまで咬み合わせと眼科症状との関連性について報告した文献はあるものの、なぜ咬み合わせの不調で眼科的症状が起こるのかというメカニズムを解剖学的、生理学的に説明した文献の数はあまり多くない。最近、こういった点に焦点を当てたレビューが出たので紹介する(1)。ただし、この文献はややこしくて、読むのに時間がかかる。レビューであるから、多くの文献のそれぞれの要点を解説しているのだが、要は顎口腔系と眼科領域とは三叉神経で支配されているところに共通項があり、そこに両者が機能的にリンクする所以がある、というもの。三叉神経は運動神経でありながら、知覚神経の機能も併せ持ち、かつ自律神経系(交感神経および副交感神経)とも神経核を介してリンクしているので、三叉神経のネットワークは複雑極まりないが、この辺の理解が明らかになってくると、これまで自律神経失調で片づけられてきた、いわゆる不定愁訴(ふていしゅうそ)とされる悩ましい身体の不調が、現実に咬み合わせと関連して起こることが明確に説明可能になるので、やはりたとえ難解でも三叉神経の解剖学的、生理学的新知見の理解は重要だ。こういった三叉神経の重要性が深く理解されるようになると、やがて、顎口腔領域の専門家である歯科医師が自律神経失調症の治療に貢献できる時代が来る。

参考文献:

(1)Dental Occlusion and Ophthalmology: A Literature Review. Marchili N, Ortu E, Pietropaoli D, Cattaneo R, Monaco A. Open Dent J. 2016 Aug 31;10:460-468.  

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